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国の借金はどのように返済可能?

No.4791 (2016年02月20日発行) P.64

清水克俊 (名古屋大学大学院経済学研究科教授)

登録日: 2016-02-20

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

日本は現在,多額の借金を抱えています。現実的に,国の借金はどのように返済可能なのでしょうか。たとえば,超インフレによって借金価値を落とすなどで返済するのでしょうか。歴史的な事例でもかまいませんので実現可能な案をご教示下さい。 (埼玉県 I)

【A】

日本政府の借金残高は諸外国と比べてもきわめて高く,GDP(gross domestic product:国内総生産)のほぼ2倍です。政府は中期財政計画を策定し,今後の道筋を描こうと努力してきていますが,国の借金がどのように返済可能なのかは必ずしも国民の目に明らかになっているわけではありません。
2015年6月に閣議決定された政府の基本方針では,2020年度までに(基礎的)財政収支を黒字化するという目標を堅持することが確認され,債務残高を中長期的に引き下げることとされています。歳入を増やし,歳出を削減すれば,財政収支は黒字化し,債務残高を減らしていくことができます。日本のマクロ経済の前提条件は良くありませんが,できるだけ良好なマクロ経済環境を実現しつつ,歳出・歳入改革に取り組むことが最善の方策です。歳入の改革とは税収増,歳出の改革とは公共サービスの縮小や所得再分配額の縮小です。
ここまでの考え方は明白なのですが,ここから先に進めようとすると大きな障壁にぶつかってしまうというのが日本の現状です。ここでは,それらを顧みず具体的な方策をいくつか挙げてみましょう。どのような改革を行うかを決めるにあたっては,日本経済や国民に大きな犠牲を強いることがないということがポイントです。
1つ目は,就業者数や労働時間の増加のための所得税制などの見直しです。現状では所得控除制度のために働く意思を失ってしまっている方が多くいらっしゃいます。こうした人たちがより多くの時間働きはじめると,付加価値の増加とともに税収増を図ることができます。
2つ目は,公共サービスの市場化や国立機関の民営化です。いわゆる「小さな政府」論で必要とされる警察や消防などの公共サービスを除き,教育や医療,労働,産業の多くの分野で市場化可能なサービスや民営化可能な機関は数多く存在しています。この際のポイントは運営の経費を政府が負担せず,サービスの利用者が負担するようにするということです。
3つ目は,生産者への所得再分配政策の見直しです。困っている企業への優遇税制や補助金は,日本経済の活力を削いでしまいます。生産者への所得再分配政策には収支均衡原理の導入,つまり,一定期間優遇された生産者は期間終了後に優遇された分を返還するインセンティブ制度の導入が必要です。
このほかに,社会保障関係の歳出改革も必要ですが,こうした歳出・歳入改革が成功しない場合,日本経済が大きなショックに突然見舞われる危険性が増大していきます。高いインフレによる借金の返済は1つの選択肢にすぎませんが,実質消費の減少という大きな犠牲を伴うものです。したがって,現実的な案はマイルドなインフレーションのもとで,必要な歳出・歳入改革を行っていくことと考えます。

【参考】

▼ 清水克俊:国債危機と金融市場. 日本経済新聞出版社, 2011.

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