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モチ性のソバ(蕎麦)について

No.4712 (2014年08月16日発行) P.66

大澤 良 (筑波大学生命環境系教授)

登録日: 2014-08-16

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

米,黍,粟などにはモチの品種があるが,ソバ(蕎麦)にはないのか? (宮崎県 A)

【A】

ソバ(蕎麦)における糯(モチ)性について説明する前に糯(もち)とは何かを簡単に記しておく。 
いわゆる糯(モチ)性の品種とはイネやオオムギなどの作物でアミロースをまったく,あるいはほとんど含まない品種のことである。対義語は粳(うるち)となる。
モチ性はウルチ性の変異体である。小学生のときに誰もが経験するヨウ素反応,すなわち,ヨード・ヨードカリ水溶液との呈色反応において種子断面が赤色を示す場合にモチ性であると判断できる。
モチ性品種がある植物としては,単子葉イネ科のイネ(稲),トウモロコシ(玉蜀黍),オオムギ(大麦),コムギ(小麦),アワ(粟),キビ(黍),ソルガム(モロコシ,蜀黍)が有名だが,双子葉ヒユ科のアマランサスでも知られている。アマランサスは南米原産のハゲイトウの仲間である。
一般にモチ形質にはデンプン顆粒結合型デンプン合成酵素granule-bound starch synthaseⅠ遺伝子GBSSⅠが関与していることが知られている。このGBSSⅠ酵素はデンプン合成の最終ステップで働く酵素で,ADP-glucoseを基質としてアミロースを合成する。アミロースはGBSSⅠがブドウ糖を連結することで作られる1本の鎖のような構造の物質である。GBSSⅠの機能が失われた場合はアミロースが作られずにデンプンはアミロペクチンとして貯蔵され,「モチ性」となる。
ソバ(蕎麦)は,イネ科植物に比べて,荒地であってもよく生育し,しかも,気象や土壌などの環境に対する適応性が高い作物として知られている。先ほどのアマランサスと同様にイネ科ではないが,種子を食することから偽穀類と呼ばれている。ソバ属植物の生育期間は,約70~90日間と比較的短く,さらに,ソバの種子には,デンプン,ポリフェノールの1種であるルチン,アミノ酸スコアの高いタンパク質,ミネラルなどの栄養成分が豊富に含まれている。これらの特徴からイネ科植物などが不作の場合に備えるための救荒作物として知られているのである。
ソバは粒食および粉にして練る「ソバガキ(蕎麦掻き)」などで食されているが,わが国で最も多く食べられている方法は,ソバ麺である。ソバ麺は一般的に,つるつるした滑らかさ,腰の強い歯応えのある食感を与えている。しかしながら,ソバのデンプンはウルチ形質であるため,ソバ粉はアミロース含有量が高く,もちもちした食感を与えにくい傾向にある。そのため,ソバ粉のみ,すなわちソバ粉10割で麺を打っても,もちもちした食感を与えるソバ麺を作ることはなかなか難しい。
小麦粉に水を加えてこねると,タンパク質成分が,グルテンという水に溶けないネットワーク構造を作り,うどんの場合は,これが「つなぎ」となり,「こし」が生まれるわけである。一方,そば粉では,小麦とは違うタンパク質成分が「つなぎ」の役割を果たしているが,このつなぎは水溶性である。だから,こねる際の水加減を調節し,つなぎとして適度な強度を保ったまま茹で上げるのは至難のわざというわけである。
ソバにはルチンなど多くの機能性成分が知られているが,食品利用に重要な形質であるモチ形質は未だに発見されていない。京都大学の安井康夫先生は,これまでソバのGBSSⅠの変異体が未発見である最大の理由はその繁殖様式にあると考えている(特願2011-094067)。ソバの生殖様式はイネなどの他の主要穀類が自殖性であるのに対し,自家不和合性による完全他殖性のため,集団中に1個体の突然変異体が出現したとしても,任意交配のために次代では機能を喪失したGBSSⅠがホモ接合となる可能性はきわめて低くなり,栽培過程でのヒトによる選抜と固定が容易ではないことが,これまでソバでモチ性品種が作られていない理由だと考えている。人間集団の中で突然変異が固定しにくいことと似ている。
安井先生は,現在,GBSSⅠ遺伝子を鋳型にしてソバ集団の中からモチ性遺伝子の探索を精力的に行っているので,ご質問のようなモチ性のソバが育成される日は近いかもしれない。

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