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上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の超音波診断

No.4761 (2015年07月25日発行) P.62

鈴江直人 (徳島大学病院整形外科講師)

登録日: 2015-07-25

最終更新日: 2016-11-10

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【Q】

近年の野球肘に対する超音波診断について,徳島大学・鈴江直人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
森原 徹:京都府立医科大学整形外科准教授

【A】

「野球肘」とは投球に起因する肘の障害全般を指す言葉なので,その中には骨軟骨障害や靱帯などの軟部組織障害といった,多くの疾患が含まれています。今回はその中で最も重症度の高い上腕骨小頭離断性骨軟骨炎について解説します。
離断性骨軟骨炎は発育のスピードにもよりますが,10~11歳頃に発症します。原因はこれまで投球動作(加速期)での小頭への圧迫ストレスとされていましたが,現在では血流障害という内的要因も関与しているのではないか,と言われています。初期では自覚的にも他覚的にもほとんど症状がなく,徐々に進行して病巣が不安定になってくると初めて痛みを生じてきます。しかし,その時点では既に保存療法が困難なことが多く,いかに初期の段階で発見できるかがこの障害の予後を大きく左右します。
この自覚症状がない段階での診断に,超音波エコーは絶大な効力を発揮します。なぜなら,ポータブルタイプの機器を用いて現場検診を行うことで,離断性骨軟骨炎を初期の時点で診断することが可能だからです。この超音波を用いた現場検診は,現在では徳島をはじめ,全国各地で行われています。
具体的な方法を説明すると,まず上腕骨小頭に対して前方および後方よりアプローチします。前方走査では肘関節をしっかり伸展させて,後方走査では最大屈曲させて腕橈関節部にプローブを当てます。小学生でも正常な小頭の軟骨下骨のラインはきれいなカーブを描く線として描出されますが,障害があるとこのラインが不整となったり,破断したりして見えます(図1)。
最初は小頭の外側から発生し,進行するに伴って中央へ広がっていきます。また,終末期に至り,病巣が不安定となっている症例では軽く屈伸することにより,骨軟骨片が動いていることを視覚的にとらえることができ,手術適応の判断にも役立ちます。
これまで用いられてきた単純X線写真やCT,MRI像との対比や,どこまでを異常とするかなど,まだまだ課題も多く残されていますが,放射線被曝させることなく現場や診察室で繰り返し検査できる超音波は,もう既に野球肘の診療にはなくてはならないものとなっています。

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