本稿では,認知症~軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)について概説する。
認知症とは,「認知機能障害が認められ,その障害により日常の社会生活や対人関係に支障をきたした状態」と定義される1)。様々な原因で脳に器質的な障害をきたすが,最も頻度の高い疾患がアルツハイマー型認知症(AD)と血管性認知症である。その他の原因疾患として,治療可能な内科疾患や脳外科疾患が含まれる。内科疾患として,葉酸やビタミンB12欠乏,甲状腺機能低下などがあり,栄養素の補充や内分泌学的な治療を行う。糖尿病治療薬(インスリンやSU薬)による重症低血糖も認知症リスクであり,「高齢者糖尿病診療ガイドライン」2)に準拠した治療が必要である。
一方,MCIは,正常ではないが認知症とも言えない程度の軽度の認知機能低下を呈し,日常生活は保たれた状態である3)。MCIは認知症に進行するリスクが高く,定期的な観察を要する。もの忘れ外来を受診するMCIでは,年間約15%が認知症に進行する1)3)。
認知症治療の基本は,薬物療法・非薬物療法(リハビリテーション)と適切なケアをバランスよく組み合わせることである。薬物療法を開始する前提は,薬の保管・管理と定期的な服薬ができること(本人または介護者が行う),薬の効果と副作用の観察を行うことができること,定期的な受診と服薬指導が受けられる環境整備があること,である。
ADの治療薬には,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)の3種類の薬剤とグルタミン酸受容体拮抗薬であるメマンチンがある。AChEIの3薬剤は併用できないが,作用機序は少しずつ異なるので症状により使いわける。また,OD錠(口腔内崩壊錠),粉薬,液剤,ゼリー,貼付薬と様々な剤形がある。使用上の注意点として,①洞不全症候群,房室伝導障害(投与前に心電図をとることが望ましい),②気管支喘息,閉塞性肺疾患の既往,③消化性潰瘍の既往,非ステロイド性抗炎症薬使用中の場合,がある。むかつき,食欲低下,下痢,便秘などの消化器症状が最もよくみられる副作用で,興奮,不穏,不眠,眠気などを訴える場合もある。認知症の治療中には興奮や攻撃性が高まることもあるが,AChEIの減量,中止により改善することも多い。メマンチンはAChEIとの併用,あるいは単独使用が可能である。副作用として浮動性めまい,眠気,頭痛を訴えることがある。
上述した薬剤はADの対症療法であり,介護者がその効果を強く認識することは多くはない。そこで「何をもって薬剤の効果判定を行うか」には十分な説明が必要で,効果判定の大切な1つの基準は日常生活上の変化である。
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