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佐藤泰然(15)[連載小説「群星光芒」237]

No.4825 (2016年10月15日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2016-10-14

最終更新日: 2016-10-18

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  • 「手前の養子佐藤尚中と門人の関 寛斎が軍医として会津征討に向かうよう薩長軍に命ぜられました」

    佐藤泰然はヘボンとシモンズに語りつづけた。

    「尚中は途中で帰国しましたが尚中の養子佐藤 進が代って征討軍の病院頭取となり、息子の松本良順が立て籠る会津に向かっています。まさか養子と実子が敵味方に別れて戦うとは思いもしませんでした」

    泰然が悲哀に満ちた声で嘆くのを聞いてヘボンはいった。

    「米国でも国内が南北に別れて忌まわしい戦いの最中です。兵士たちは手足を大砲の砲弾で吹きとばされ、銃弾に目鼻を撃ち砕かれて死んでゆく。なぜ兵士たちはこんな悲惨な目に遭わねばならぬのか」
    「答えになるかどうか判りませんが」

    泰然は苦悩の表情をうかべていった。

    「わが国の武士には特有の道義があり、いったん主家が滅亡の危機に瀕したとき、君辱められば臣死すとの訓により、生命を軽んずるのが武士たる者の節操なのです。手前には身内の者が同じ志を抱いて戦場へ向かった心意気を好しとする気持ちもあり、なんとも複雑な心境です」

    3人はしばらく沈思黙考にふけった。

    ややあってヘボンは質問した。

    「泰然さん、貴方は養子にやった息子たちと養子に迎えた後継者が戦う羽目になったと話された。それは一体どういうことなのか。貴方はなぜ実子を順天堂医院の跡継ぎにしなかったのか?」

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