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D3革命 [フィロソフィア・メディカ2(4)]

No.4822 (2016年09月24日発行) P.68

中田 力 (新潟大学名誉教授・カリフォルニア大学名誉教授)

登録日: 2016-09-23

最終更新日: 2016-10-12

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  • No More Radiology

    科学者の給料を下げようと言って、大変な顰蹙を買ったことがある。
    カリフォルニア大学でのことである。
    科学者という職種がまだ変り者のための駆け込み寺だった時代で、医学部に行くことが臨床医になることと同義であるアメリカにおいては、医療と医学を同時に追いかけようとするアカデミッシャンも、変人サイドに所属していた。

    「あなたはMDだからそんなことが言えるのよ!」

    普段は穏健なPhDであった友人が、あれほど怒った顔を見たのはそれが最初で最後だった。後で知ったことだが、彼女は研究費が切れた一時期、生活保護を受けていたことがあったらしい。やがてNSF1)の重鎮となり名を遺した基礎脳科学者である。NIHの研究費を受け取り、その5年間に書いた論文が一つだけで、また、7年間の研究費に採択されたという、とんでもない離れ業をやってのけた御仁でもあった。

    「官僚は数えることはできても読めない」

    が、アメリカのボスの口癖であったが、評価される人間よりも評価する人間の能力が劣っていることが世の常である。それは日本でも米国でも大差はない。内容ではなく論文の数を重視する傾向は評価者の能力のなさを知らしめていることに繋がるのだが、それすらも理解できなくなっているのが現状である。残念だが、仕方のないことなのだろう。彼女の快挙は、米国科学研究費選定制度、延いては、米国医学会が官僚化されていなかった、古き良き時代の逸話となった。
    そんな1980年代は、医療現場に様々な風が吹き荒れた時代でもある。
    先頭を切ったのはMRIである。
    70年代に医療革命を果たしたCTをあれほどのスピードで追い越してしまうとは、我々開発者もまったく予測しなかったことである。
    MRIはもともとNMRイメージングと呼ばれた。NMRとは核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance)と呼ばれる物理現象のことである。MRIは水分子のプロトンの核磁気共鳴現象を用いたものであるから、正式にはwater proton NMR imagingと呼ばれていたのである。その開発は我々物理工学系の医師を中心に行われていた。
    NMRは放射線を使わない、きわめて人に優しい技術である。臨床医の立場から言えば、NMRを使った画像診断が可能となったことは、何よりも素晴らしい朗報であった。したがって、NMRイメージングはNo More Radiation(放射線は使わない)イメージングであると呼ばれた。それが放射線科の医師たちにとって脅威となった。No More Radiology(放射線科は要らない)と解釈されたのである。

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