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穆如清風(おだやかなることきよきかぜのごとし)―複雑系と医療の原点

臨床医にとっての「原点」を示す「逸」冊!

定価:1,620円
(本体1,500円+税)

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著: 中田 力(新潟大学統合脳機能研究センター長)
判型: 四六判
頁数: 160頁
装丁: 単色
発行日: 2010年12月10日
ISBN: 978-4-7849-4228-2
版数: 第1版
付録: -

『日本医事新報』誌上で、臨床家から絶大な支持を受けた連載企画 「フィロソフィア・メディカ」を再構成。タイトルは詩経にある蒸民の詩の一節「おだやかなること きよきかぜのごとし」からとっており(音読みはボクジョセイフウ)、理想とする医師像を最先端の科学と古今東西にわたる知識を駆使して浮かび上がらせた、他に類を見ない「逸」冊となっています。
混沌とした「今」を生きる臨床家にエールを贈る良識の書。

目次

第1章 ローレンツの蝶々
第2章 クラウジウスの預言
第3章 アインシュタインの博士論文
第4章 ボルツマンと大気圏
第5章 ファインマンの冗談
第6章 フィボナッチのファイ
第7章 ピカソの相対性理論
第8章 医療の原点
第9章 洪範九疇
第10章 諸葛亮の武当山
第11章 心の誕生
第12章 神の杖
第13章 最高の友達
第14章 北極星と桑の木
第15章 原点の民

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序文


医療は皆のものである。
だからこそ、美しい民の国・日本では、正しい医療が栄えるはずである。しかし、今、日本の医療が揺らいでいる。
「日本医事新報」の編集者が、臨床医を対象としたエッセイの連載を持ちかけてきた時、普段はすぐに断る私が、なぜか承諾の返事をした。それは、訪ねてきた編集者の心の綺麗さに感動したことと、自分ができることは、現場の心ある医師たちへの応援メッセージを出すことぐらいであると痛感していた時だったからである。
そして、タイトルを「フィロソフィア・メディカ ― 複雑系科学入門」とした。
現場の臨床医は複雑系が何であるかを十分理解している。ただ、自分たちが扱っているものが複雑系であるという実感を持っていない。自分たちが知らず知らずのうちに習得していたものが、人間の叡智が辿り着いた究極の科学であるということを知ることは、それなりに意義のあるものだと思った。

15回の連載を終え、単行本として出版することになり、改めてタイトルを決めることとなった。そして選んだ言葉が、「穆如清風」である。詩経にある烝民の詩の一節であるが、目立たずとも、強い影響を及ぼすさまを表わしている。作者尹吉甫は周の宣王に仕えた名臣だが、強きものを恐れず、弱きものを助け、功を私ごととしない賢人であったと伝えられている。
一人の医師として、こうありたいと願うさまである。

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レビュー

【書評】複雑系としての医療を見つめ直す

中村桂子
本書はこう始まる。「医療は皆のものである。だからこそ、美しい民の国・日本では、正しい医療が栄えるはずである。しかし、今、日本の医療が揺らいでいる」。そして「医療は、国の根底をなすものである。従って、医療が崩れた時、その国も滅びる。日本という美しい国を守るのは、我々、現場の医療人の義務なのかもしれない」と結ばれる(標題は、目立たずとも強い影響を及ぼす様を言うのだそうだ)。

著者は、カリフォルニア大学の医療現場で活躍すると同時に、日本で脳研究を通して複雑系の最先端研究を進めている。その経験から「生命体そのものが複雑系であることは明白であり、従って、医学も、もちろん複雑系である。そして、現場の臨床医は、たとえ複雑系という言葉は知らなかったとしても、医学が複雑系であることをずっと昔から肌身に感じていた人々でもある」と述べ、「近年、マニュアル化を推し進めている医療の世界は、この医療の根本原則に反した行為を推奨していることは明らかである」と疑問を呈する。

美しい民の国日本が美しい国としてあって欲しいという願いを共有する者として、最先端の知を基本に医療という場での具体的活動を語る本書に夢を見出(みいだ)した。各章には、アインシュタイン、ファインマン、ボルツマンなどの物理学者からピカソや諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)までが登場し、洋の東西、古典から現代までの往来の中、生命現象がカオスやフィボナッチ数列で説明される。詳細を理解するのは難しいが、ここで大事なのはそこから引き出される人間についての考察であり、医療のありようなので、あまりひっかからずに読み進めよう。

「心の誕生」という章を見る。温度管理が重要な脳神経活動は、恒温動物の哺乳類(ほにゅうるい)と鳥類で発達した。鳥類では小脳が発達し、非線形運動制御による自由飛行を可能にした。人間は小脳の発達での二足歩行に加えて大脳を発達させ、そこに独自の前頭前野をもった。ここに損傷を受けることで人格が変わってしまった事例から、ヒトとは「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」と分かる。もっともこの能力はよいことだけではない。だましたり、うつ状態になったり……そこで著者は弊害をもたらさない前頭前野機能をあげると「他人を敬い、優しさを持った、責任感のある人間」が浮かび上がり、これが正しい医療人の姿だろうと言う。

ピカソの章も興味深い。二十世紀初め物理学が相対性理論を生んだ時と並行して、絵画ではキュービズムが生まれた。さまざまな角度から見たものを一つの面に描いた絵画は、抽象ではなく、高次の認知プロセスを通して具象化される。他人のために何らかの判断をする役をもつ医療人は、このような「視点の移動」ができなければならず、それは「常に真摯(しんし)に論理的な思考を続けている知識人のみ実践可能な脳の高次機能」なのだそうだ。考え、複数の視点で判断することの重要性は社会のあらゆる場面にあてはまる。

著者は、科学が今生命という複雑系に謙虚に向き合うところに来ているのに、最近の医学が、複雑さに向き合わず、「偽りの分かりやすさ」を見せ、論文発表合戦に明け暮れ、経済効果を最優先することで医療を壊していると危惧する。「自分を産んだ母なる自然にまでも挑戦しようとする愚かさを持ってしまった現代に生きるヒトという種は、やはり、もう一度、原点に戻った哲学を持たなければならないのだろう」と考える医療人は決して著者一人ではなかろう。そこに期待したい。

(毎日新聞・2011年2月20日東京朝刊「今週の本棚」欄より)

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【書評】美しい語り口でしめす臨床医の「原点」と人間の叡智

黒川 清(政策研究大学院大学教授/特定非営利活動法人日本医療政策機構代表理事)
私は友人の1人だが,著者の中田さんとはたまに会うと話が止まらない。子どもの頃の友人たちに聞くと,とにかく小さいときから秀才として,皆から認められていたようだ。数学,物理などが得意で,いまや脳機能イメージング(fMRIなど)を開拓する世界の研究フロンティアの1人。しかし,多くの日本の医学研究者と違うのは,東大医学部を卒業してからすぐに渡米,臨床研修からすべて米国で臨床医キャリアを積み,活動しているところだ。California大学教授で脳神経学を担当,大学病院での臨床研修責任者「Program Director」(これは大変な仕事なのだ)を15年も担当するバリバリの臨床医である。この8年は新潟大学の教授も併任して統合脳機能研究センター長を務める。異色の人である。

本書は,タイトルがいかにも中田さんらしい。『穆如清風─おだやかなること きよきかぜのごとし』。彼の臨床医としての原点と,多くの優れた先輩に出会って構築されてきた「医療は複雑系」という認識,そして,その背後にある深い哲学が見て取れる。どの章も,1つひとつが「美しい作品」だ。

彼のエッセイのすばらしさは,その医療に対する哲学の世界観的「時間軸」と「広がり」にある。本文からは,彼が1人ひとりの患者さんから学んできたことはもちろん,多くの先人,賢人の伝えてきた古今東西の人間の知性と葛藤,知的好奇心と知識と知恵を感じ取ることができる。私たちは多くの先人の導きの線上にいるのだと。

日常の多忙な診療にかかわる医師にとっても,また多くの研究者にとっても,医師,医療の原点を考えさせてくれる,また考えるきっかけになることを期待したい1冊である。

本音を言えば,中田さんには,各エピソードについて,もう少しでも広げて書いてくれるとうれしいのだが。これは,いずれの楽しみとして期待しよう。
お薦めの1冊である。

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