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【識者の眼】「我が国の治療薬の保険適用の問題」渡辺晋一

No.5038 (2020年11月14日発行) P.60

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-11-06

最終更新日: 2020-11-06

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海外では十分なエビデンスがないのにもかかわらず日本で汎用され、医療費高騰の要因になっている皮膚科の薬を述べる。その代表的なものは、ヘパリン類似物質外用薬(日本でしか使用されていない)と抗ヒスタミン薬である。

わが国で痒み止めの効能が認められている薬には第一世代(鎮静性)と第二世代(非鎮静性)の抗ヒスタミン薬がある。そして第二世代の抗ヒスタミン薬はかつて日本では抗アレルギー薬と呼ばれ、高い薬価が付いていた。しかしこれらの薬剤が効くのは、ヒスタミンが関与する蕁麻疹やアレルギー性鼻炎で、アトピー性皮膚炎や湿疹・皮膚炎の痒みに有効という証拠はない。

実際欧州のアレルギー学会のアトピー性皮膚炎治療のガイドラインにはこれらの抗ヒスタミン薬は入っていないし、米国と欧州の皮膚科学会のアトピー性皮膚炎治療のガイドラインでも、抗ヒスタミン薬がアトピー性皮膚炎に有効との証拠は乏しいと記載されている。またある高名な英国の教授は特別講演で、「抗ヒスタミン薬がアトピー性皮膚炎に有効であるとのエビデンスは乏しいし、自分の経験でもアトピー性皮膚炎に有効との印象はない」と言っていた。「ただし抗ヒスタミン薬がアトピー性皮膚炎に有効だという日本の論文が一つあるが、それはアトピー性皮膚炎に伴う? 蕁麻疹をみたものであろう」と述べていた。同様の記載は世界的な皮膚科教科書にもある。

日本の治験は、治験を開始する前にステロイド外用薬を1週間使用し、それに反応しない症例に、抗ヒスタミン薬を投与したものである。治験の前のステロイドの外用は、アトピー性皮膚炎の患者を減らし、蕁麻疹患者を増やすために行った介入と捉えることもできる。しかしこの治験に蕁麻疹患者が混ざっていたのかの検証は行われていない。実際、治験を行った大学病院の治療成績ではプラセボと有意差がみられなかったという。

また鎮静作用がある抗ヒスタミン薬は眠気を催し、脳の発達に影響を及ぼす可能性があるため、小児には使用すべきでないと米国食品医薬品局(FDA)は勧告を出しているが、日本では小児にも保険の適用がある。さらに抗ヒスタミン薬は気管支喘息にも保険の適用があったが、エビデンスがないことがわかり、アレジオン(1994年6月販売開始)より後に開発された抗ヒスタミン薬には気管支喘息の保険適用はなくなった。しかしそれ以前の薬は、保険適応の見直しは行われていない。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[抗ヒスタミン薬]

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