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佐藤泰然(1)[連載小説「群星光芒」223]

No.4811 (2016年07月09日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-23

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  • 遠方より1台の早駕籠が駆けて来るのが見えた。駕籠は曲がりくねった小路をぬけて鶴ヶ岡城(山形県鶴岡市)を目指している。

    「おお、あれは昼夜兼行の早追いじゃ」

    二重櫓の物見役は櫓の下に屯する見張り番に大声で告げた。

    「大手門の門番に早追いだと知らせよ」

    ほどなく城門に飛び込んできた早駕籠から転び出たのは江戸神田橋の庄内藩邸から駆けつけた留守居役の矢口弥平だった。

    弥平は藩士らに両脇を支えられて立ち上がり、差し出された水をごくりと飲むと、

    「御家の一大事でござる」

    と喘ぐようにいった。天保11(1840)年11月7日の早朝のことである。

    本丸御殿の対面所に通された弥平は、御国入りしていた藩主酒井忠器と国家老の前に平伏すると、「畏れながら申し上げます」とわなわなと唇をふるわせた。

    「将軍家には7日前の11月朔日、当藩に対して越後国長岡藩へ転封するよう台命を下されました。当藩に領知替えをいたすのは武蔵国川越藩主の松平大和守斉典侯であり、長岡藩主の牧野備前守忠雅侯には川越藩へ移封せよとの三方領知替えにございます」

    「わが庄内藩は越後長岡へ、長岡藩は武蔵川越藩に、そして川越藩が当藩へとの台命なのだな」

    忠器は心中に生じた動揺を必死でおさえつつ確かめたのだが、声はうわずっていた。弥平は首肯してつづけた。

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