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144回:学会レポート─2022年米国糖尿病学会(ADA)

登録日:
2022-07-19
最終更新日:
2022-07-19

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

2019年以来のライブ開催を伴う米国糖尿病学会(ADA)学術集会が、6月3日から米国ニューオーリンズで開催された。現地参加者はワクチン接種証明を求められ、会場内は原則としてマスク着用が義務づけられた。参加人数はバーチャルを合わせて1万人ほどだったという。例年に比べ大規模試験の報告が少ない中、治療指針改訂に向けての動きや、心不全例に対するSGLT2阻害薬の有用性の一機序と目されている「ケトン体仮説」検証研究などを紹介したい。

TOPIC 1
大転換に向かう欧米治療指針:草案公表

2型糖尿病(DM)例への血糖低下治療は近年、「心血管系(CV)イベント抑制」、「体重減少」など、新たなエビデンスの登場が続く。そのような変化を受け、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は、2型DM血糖管理に関する合同治療指針の改訂に着手し、本学会で草案が報告された。現在の欧米治療指針から大きく変更される見込みだ。最終版は、9月のEASD学術集会(ストックホルム)で公表予定だという。

新治療指針は、2型DM例管理の目的を「合併症抑制とQOL最大化」とした上で、患者中心の全人的(holis-tic)アプローチを採用した。その結果、「血糖管理」と「体重管理」、「CVリスク因子管理」(血糖以外)、「心腎保護」という4つの介入に優先順位はなく、どこから手をつけるかは、患者と医師が話し合いの上、共同で決定する。そして医師は、そのように決定した特定の介入にのみ集中するのではなく、目の前の患者に応じた、それ以外の介入の必要性をも、常に考慮することが求められる。

このような考え方に基づき、血糖低下薬選択のアルゴリズムも大きく変化した。

まず治療は「心腎保護」と「血糖・体重改善」いずれに注目するかで2つの方針に大別される。その上で、「心腎保護」は「CV疾患既往・高リスク」と「心不全合併」、「CKD合併」という亜集団ごとに指針が示され、「血糖・体重改善」方針も、「血糖低下」、「体重減少」別に詳細な推奨が明記されている。そしてある治療方針が達成されたら、次の治療方針に取り掛かる─、今回示されたチャートでは、そのような流れとなっている。

次に、血糖低下薬に関する具体的推奨を概観する。あらゆる患者に第一選択とされる血糖低下薬は姿を消し、上記4つの介入別に推奨薬が示されている。

「血糖低下」における推奨薬は、メトホルミン単剤または、多剤併用である(併用にメトホルミンが必須か否か、今回の報告では不明)。多剤選択の際には、「体重減少」が同時目標(co-primary goal)である点にも留意する。

「体重減少」を目指した血糖低下薬としては、GLP-1受容体刺激作用のある薬剤が高く推奨され、SGLT2阻害薬も弱いながら減量作用があるとされた。またDPP- 4阻害薬は体重に「影響なし」という形で言及されている。

CV疾患既往・リスク因子を持つ2型DM例への推奨薬は、SGLT2阻害薬とGLP-1アナログである。またSGLT2阻害薬は、心不全合併例に対する唯一の推奨薬となった。

CKD合併2型DM例に対しては、尿中アルブミン/クレアチニン比「≧200」mg/gCrであればSGLT2阻害薬、「<200」であればSGLT2阻害薬かGLP-1アナログが推奨された。

新治療指針を執筆しているのは、ADA・EASDから選ばれた15名。地域を含む多様性を反映すると同時に、可能な限り利益相反の少ない人選を心がけたという。

なお、草案については現在パブリックコメントを募集中であり、上記からの変更もありうる。最終版がどのような形で落ち着くのか─、9月を待ちたい。

TOPIC 2
HFrEFに対する「ケトン体仮説」を検証:小規模臨床試験

SGLT2阻害薬は、左室収縮能低下を認める心不全(HFr EF)に対する「心血管系死亡・心不全増悪」抑制作用が、ランダム化試験“EMPEROR-Reduced”1)と“DAPA-HF”2)で示されている。ただしその機序は、必ずしも明らかになっていない。

様々な仮説が提唱されており、そのうちの1つが「ケトン体仮説」である。SGLT2阻害薬による血中ケトン体の増加が、心臓のエネルギー利用効率を改善するのではないかとされている3)。そこでCarolina Solis-Herrera氏(テキサス大学、米国)は、血中ケトン体濃度上昇がヒト心機能に及ぼす影響を検討した。

検討対象は、「左室駆出率(EF)<45%」でNYHA分類「Ⅰ-Ⅲ」心不全を呈する2型糖尿病24例である。全例、標準的心不全治療薬とメトホルミン(±SU薬)を服用している。平均年齢は60歳弱、EF平均値は39%だった。

これら24例は、ベータヒドロキシ酪酸(BOHB)低用量注入群と高用量注入群にランダムに分けられ、注入前後の心機能(MRI評価)が比較された。また、低用量群ではBOHB注入・心機能評価後、あらためてプラセボ(NaHCO3)を注入し、同様に心機能への影響を評価した。

その結果、血中BOHB濃度は、低用量群で平均1.3 mmol/L、高用量群で2.5mmol/Lまで上昇した。また血中グルコース、インスリン濃度は両群とも、BOHB注入後有意に低下したが、グルカゴンが有意に低下したのは低用量群でのみだった。他方、HCO3とpHは両群とも、BOHB注入後に有意高値となった。

そして心機能だが、低用量群では注入後、心拍出量は平均で0.76mL/分の有意増加、1回拍出量も9.67mL、EFは3.88%、有意に増加した。高用量群では増加幅がさらに大きく、順に1.23mL/分、12.45mL、6.34%となった。群間の検定は示されなかったが、Solis-Herrera氏は「心機能改善作用はBOHB用量依存性ではないか」との考えを示した。一方、NaHCO3注入の前後では、これら3指標はいずれも変化を認めなかった。

以上の結果を同氏は、「ケトン体仮説」を支持するデータと評価した。今後は、蛍光標識したBOHBを注入し、どの臓器に取り込まれるのかを観察する予定だという。

質疑応答で、SGLT2阻害薬服用時のBOHB濃度上昇を問われたSolis-Herrera氏は、おおむね「0.5mmol/L」程度と回答の上、本研究でそれを大きく上回るBOHB濃度を採用したのは、「ケトン体仮説」というコンセプトを検討するためだ(=SGLT2阻害薬の有効性検討ではない)と強調した。

一方、今回認められた心機能改善が「心収縮能増加」と「後負荷減少」(抵抗血管拡張)4)のいずれに起因するのかとの問いには、答えられなかった。

また、Solis-Herrera氏らの教室からは「SGLT2阻害薬は非糖尿病例のケトン体を増加させない」とする論文が出されており5)、だとすれば、“EMPEROR-Reduced”、“DAPA-HF”における糖尿病非合併HFrEFに対するSGLT2阻害薬の転帰改善作用は「ケトン体仮説」では説明できないのではないかとの指摘もあった。これに対しても、明確な回答は聞かれなかった。

TOPIC 3
「代謝異常」から見た肝脂肪蓄積量の正常上限は「2%」?:Dallas Heart Study

近年、糖代謝異常と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の関連に注目が集まっている。NAFLDと診断される肝細胞脂肪蓄積量は現在、日米とも「5%以上」とされているが6)、糖代謝異常の観点から見た場合、この値は適切なのか─。そのような疑問を投げかけるデータが発表された。報告したのは、Minh-Da Le氏(テキサス大学サウスウェスタン医療センター、米国)である。

同氏が解析したのは、大規模住民コホートである“Dallas Heart Study”参加者中、MRスペクトロスコピーで肝脂肪が評価されていた2287名である(18~65歳、平均44歳)。肝臓の脂肪含有率で五分位群に分け、各種代謝パラメーターを横断的に比較した。

その結果、肝脂肪含有率第2五分位(1.81~2.86 %)群において既に、HOMA-IR中央値は、正常値上限を超える「2.1」(四分位範囲[IQR]:1.2-3.4)まで上昇していた。そして第3、第4、最高五分位と肝脂肪が増えるに従い、HOMA-IR中央値は2.7、3.6、5.1と増加する有意な傾向が認められた(最低群では1.6[1.1-2.9])。

ただし、この集団のBMI平均値は29.2kg/m2であり、肥満例が相当数含まれている可能性がある。そこで「BMI<30kg/m2」の1455名(BMI中央値:25.5[IQR:23.2-27.8]) のみで検討した。しかし、やはり同様に、肝脂肪含有率第2五分位(1.53~2.36%)群のHOMA-IR中央値は正常上限を超えていた(1.7[1.1-2.6])。

以上よりLe氏は、現在は「正常」と考えられている程度の肝脂肪沈着時から既に、代謝異常は始まっていると結論した。ROC曲線を用いた検討は行っていないが、肝脂肪含有率「2%」前後が、糖代謝異常の観点から見た正常上限ではないかという。

本研究には、申告すべき利益相反はないとされた。

TOPIC 4
GIP/GLP-1受容体アゴニストの腎保護作用をインスリンと比較:RCT“SURPASS-4”追加解析

GIP/GLP-1受容体アゴニストであるチルゼパチド(tirzepatide)をインスリングラルギンと比較した“SUR PASS-4”試験の腎転帰が、Hiddo J.L.Heerspink氏(フローニンゲン大学メディカルセンター、オランダ)により報告された。

SURPASS-4試験は、心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)例に対する、チルゼパチドとインスリングラルギンのCVイベント抑制作用を比較した、ランダム化試験である。昨年報告された主解析において、チルゼパチドはインスリンに比べ、HbA1c(1次評価項目)をおよそ1%低下、体重も約10kg低下させたものの(いずれも有意)、「CV死亡・心筋梗塞・不安定狭心症入院・脳卒中」のハザード比(HR)は0.74(95%信頼区間[CI]:0.51-1.08)と、有意差には至らなかった(非劣性は証明)。今回報告された「腎転帰」は、事前設定解析である。

SURPASS-4の対象は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬で管理不良(HbA1c:7.5-10.5%)、かつ「BMI≧25kg/m2」のCV高リスク2型DM 1995例である。平均年齢は64歳、男性が6割強を占めた。

推算糸球体濾過率(eGFR)平均は81mL/分/1.73m2。「eGFR<60mL/分/1.73m2」が18%、微量アルブミン尿陽性は28%、顕性蛋白尿を8%に認めた。

腎保護薬としては81%がレニン・アンジオテンシン系抑制薬、25%がSGLT2阻害薬を服用していた。

これらは3用量のチルゼパチド群と、インスリングラルギン群の4群にランダム化され、非盲検下で最長104週間、観察された。インスリンは就寝前10IU/日から開始し、空腹時血糖「<100mg/dL」となるよう調節が指示された。

その結果、チルゼパチド群における「顕性蛋白尿出現・40%以上のeGFR低下・末期腎不全・腎死」のHRは0.58(95%CI:0.43-0.80)と、インスリングラルギン群に比べ有意に低値となっていた。ただし内訳を見ると、「腎死」は両群とも発生せず、「末期腎不全」もインスリングラルギン群の0.5%のみ。「eGFR低下」はチルゼパチド群でHR:0.87も、95%CIは「0.56-1.33」だった。つまり有意差を認めたのは「顕性蛋白尿出現」(2.5 vs. 6.1%)のみである(HR:0.41、95%CI:0.26-0.66)。

そこで尿中アルブミンの推移を見ると、チルゼパチド群では治療開始42週後に約20%低下するも、52週後には上昇し、開始時からの低下率は5%まで縮小する。そして以降はそのまま変化なく、試験終了時の低下率(vs. 開始時)は4.4%だった。一方、インスリングラルギン群では一貫して経時的な上昇を認め、最終的には試験開始時から56.7%の有意高値となっていた。

興味深いのはeGFRの推移である。インスリングラルギン群では一貫して低下が続いたのに対し、チルゼパチド群では開始時の81.8mL/分/1.73m2から、12週後には約78mL/分/1.73m2まで低下するものの、その12週後にはおよそ80mL/分/1.73m2にまで回復(この時点でインスリングラルギン群と同等)、以降の低下率はインスリングラルギン群よりも若干だが抑制されていた(104週後にはインスリングラルギン群に比べ、2.0mL/分/1.73m2の有意高値)。

このSGLT2阻害薬にも似たeGFRの推移をもたらす機序としてHeerspink氏は、GLP-1刺激によるNHE3阻害作用7)を介した「尿細管糸球体フィードバック機構正常化」の可能性を指摘した。

またチルゼパチド群における尿中アルブミン低下作用について同氏は、GLP-1刺激による内皮機能改善を機序のひとつとして挙げたが、共同研究者は、これまでのGLP-1アゴニスト臨床試験ではここまでのアルブミン尿抑制作用は認めなかったとした上で、GIP受容体刺激が関与している可能性を指摘した。

なお本報告では、両群の血圧推移は示されなかった。

本試験はEli Lilly and Companyから資金提供を受けて実施された。

TOPIC 5
フィネレノンの心腎保護作用はGLP-1アゴニスト併用に左右されず?:RCT併合解析

非ステロイド型の選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンは、慢性腎臓病(CKD)合併2型糖尿病(DM)例に対する心腎保護作用が、大規模ランダム化試験“FIGARO-DKD”8)と“FIDELIO-DKD”9)で明らかになっている。しかしこれら2試験では、現在、米国でCKD合併2型DMに推奨されているSGLT2阻害薬とGLP-1アゴニストの併用率は1割未満だった。そのため、これら標準治療へのフィネレノン上乗せ効果は必ずしも明らかではない。

そこでPeter Rossing氏(ステノ糖尿病センター、デンマーク)は、上記2試験併合データからGLP-1アゴニスト併用例を抽出し、フィネレノン上乗せの作用を解析した。

今回、併合解析された“FIGARO-DKD”と“FIDELIO-DKD”の対象はいずれも、忍容最大用量のレニン・アンジオテンシン系抑制薬を服用していたCKD合併2型DMである。両試験併せて1万3171例が、フィネレノン(10~20mg/日)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検下で3年間(中央値)観察された。1次評価項目は“FIGARO”が心血管系(CV)イベント、“FIDELIO”が腎イベントだった。

今回の解析は、上記からプロトコール違反例を除外し、試験開始時にGLP-1アゴニストを使用していた944例と残りの1万2082例に分けて実施された。

背景因子は、GLP-1アゴニストの有無でランダム化した結果ではないため、服用の有無で若干の差が認められた。特に、GLP-1アゴニスト使用群では、血糖低下薬や降圧薬、そして脂質低下薬の併用率が高かった。

さて腎転帰だが、尿中アルブミン/クレアチニン比は、GLP-1アゴニスト併用の有無を問わず、フィネレノン群でプラセボ群に比べ有意に低値だった。

また、フィネレノン群における「腎不全・57%以上の推算糸球体濾過率(eGFR)持続的低下・腎関連死」の対プラセボ群ハザード比は、GLP-1アゴニスト併用群で0.82(95%信頼区間[CI]:0.45-1.48)、非併用群で0.77(同:0.67-0.89)であり、併用の有無による有意な交互作用は認められなかった(P=0.79)。「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中・心不全入院」についても同様で、フィネレノン群における有意な抑制作用は、GLP-1アゴニスト併用の有無に影響を受けていなかった。

有害事象も同様である。服用中止を要した有害事象の発現率は、GLP-1アゴニスト併用ならフィネレノン群:7.1%、プラセボ群:5.9%、非併用でも順に6.3%と5.4%だった。高カリウム血症の頻度も、GLP-1アゴニスト併用の有無に影響を受けていなかった。

質疑応答では、GLP-1アゴニストにはフィネレノンと代謝酵素競合の可能性がある薬剤も存在するとして、GLP-1アゴニスト間で転帰に差があったかを問う声が上がった。しかし当然ながら、少数での解析であるため、そのような違いは見出されなかったとRossing氏は述べた。

本解析、ならびに“FIGARO-DKD”と“FIDELIO-DKD”の両試験は、Bayer AGからの資金提供を受けて実施された。

【文献】

1) Packer M, et al:N Engl J Med. 2020;383(15):1413-24.

2) McMurray JJV, et al:N Engl J Med. 2019;381(21): 1995-2008.

3) Ferrannini E, et al:Diabetes Care. 2016;39(7):1108-14.

4) McCarthy CG, et al:JCI Insight. 2021;6(20):e149037.

5) Al Jobori H, et al:Diabetes Obes Metab. 2017;19(6): 809-13.

6) Chalasani N, et al:Hepatology. 2018;67(1):328-57.

7) Thomas MC:Diabetes Metab. 2017;43(Suppl 1): 2S20-2S27.

8) Pitt B, et al:N Engl J Med. 2021;385(24):2252-63.

9) Bakris GL, et al:N Engl J Med. 2020;383(23):2219-29.

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