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第165回:学会レポート―2023年米国心臓協会(AHA)

登録日:
2024-04-09
最終更新日:
2024-04-12

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

さる2023年11月11日から3日間、米国フィラデルフィアで米国心臓協会(AHA)学術集会が開催された。本年はライブ開催のみでウェブでの同時配信はなく、また後日ウェブ公開された録画も収録されていたセッションは一部のみだった。ここではLate-Breaking Scienceセッションで報告されたランダム化比較試験(RCT)3報を紹介したい(23年12月のウェブ報告に加筆・修正)。

TOPIC1
GLP-1-RAは非糖尿病の過体重・肥満例でもCV転帰を改善。減量効果が現れる以前からイベントは減少─RCT“SELECT”

今学会の注目演題と目されたのが、ランダム化比較試験(RCT)“SELECT”である。糖尿病は呈さないが過体重・肥満である心血管系(CV)2次予防例において、GLP-1-受容体作動薬(RA)はプラセボに比べCVイベントを有意に減少させた。ただしその機序の解明にはさらなる解析・研究が必要なようだ。

A. Michael Lincoff氏(クリーブランド・クリニック、米国)が報告した。

【対象】

SELECT試験の対象は、(1)45歳以上で、(2)BMI≧27 kg/m2、かつ(3)脳心末梢血管疾患既往のある、1万7604例である。なお「糖尿病」例や「血糖降下薬使用」例などは除外されている。

平均年齢は62歳、女性は28%のみだった。体重は平均で97kg、BMI平均値は33kg/m2だった。また66%が糖尿病予備群(HbA1c:5.7〜6.4%)だった。

CVリスクに関しては、(1)88%がスタチンを服用し(LDLコレステロール中央値は78mg/dL)、(2)収縮期血圧平均値は131mmHgだった。「良好に管理されている」とは、Lincoff氏による別セッションでの評価である。

【方法】

これら1万7604例はGLP-1-RA(セマグルチド注2.4 mg/週)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均39.8カ月観察された。

【結果】

・1次評価項目

その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(いずれか初発)の発生率はGLP-1-RA群で6.5%となり、プラセボ群に比べ1.5%の有意低値だった(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.72−0.90)。

両群のカプラン・マイヤー曲線は試験開始直後より乖離を始め、その差は観察期間を通して開き続けた。

・CV死亡

他方、1次評価項目の1つである「CV死亡」の発生率曲線の推移は、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」とまったく異なっていた。

すなわち、(1)開始直後から両群間の差が開きはじめる様子は1次評価項目と同じだが、(2)18カ月を過ぎるとその差は縮まりはじめ、(3)24〜36カ月の間は2群の発生率曲線がほぼ重なったまま推移、(4)そして36カ月を経過すると再びGLP-1-RA群における発生率が著減する─という経過をたどった(全体として有意差なし)。

このような「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」と「CV死亡」発生率曲線の差を埋めたのは、おそらく「非致死性心筋梗塞」だと思われる(1次評価項目中発生率が最多)。しかしカプラン・マイヤー曲線は提示されなかった(事前設定された統計手順に準拠)。

【結論】

以上よりLincoff氏は、GLP-1-RAによるCVイベント抑制の機序については断言を避けながらも、「厳格なRCTにおいて過体重・肥満例のCVイベントリスクを減少させた初めての体重管理療法」だと結論した。

【質疑応答】

これに対し記者会見では「体重減少とCVイベント抑制の相関」を示すデータの有無が問われた。GLP-1-RA群では試験開始12週間後、約4%(4kg弱)の減量時点で、1次評価項目は既に著明に減少していた(最終的には10%弱の減量)。Lincoff氏によれば、この点は現在解析中だという。

また1次評価項目中、発生数が最も多かった心筋梗塞の詳細データが報告されなかった理由についても質問が飛んだ(Lincoff氏の回答は先述の通り)。こちらも「探索的解析」の報告が待たれる。

本試験はNovo Nordiskから資金提供を受けた。また同社社員4名が治験運営委員会(Steering Committee)に名を連ね、別社員1名が統計解析の補助にあたった。さらに同社は、グラフ作製を含む論文作成補助の資金も提供した。

本試験は報告と同時に、NEJM誌ウェブサイトで公開された1)

TOPIC 2
「認知症」を1次評価項目とした初の大規模降圧RCT、結果はポジティブ─“CRHCP”

降圧による認知症抑制が初めて報告されたランダム化比較試験(RCT)は2002年のSyst-Eur試験2)だが、20年の時を経て1次評価項目に認知症発症を据えたRCTが報告された。中国で実施された“CRHCP”(China Rural Hypertension Control Project)試験である。降圧目標「<130/80mmHg」への積極降圧で、通常の降圧治療に比べ、認知症発症リスクは相対的に15%減少していた。Jiang He氏(テュレーン大学、米国)が報告した。

【対象】

CRHCP試験の対象は、中国在住で40歳以上の高血圧患者3万3995例である。326の農村から登録された。

高血圧の定義は「未治療で≧140/90mmHg」「降圧薬服用下/脳心腎疾患または糖尿病合併で≧130/80mmHg」とされた。平均年齢は63歳、女性が61%を占め、BMI平均値は26kg/m2だった。

【方法】

これら3万3995例は「到達血圧<130/80mmHg」をめざす「積極降圧」群と、「通常治療」群にランダム化され、4年間の「認知症発症」率が評価された。ランダム化は村単位で実施され(「積極降圧」群:163村、1万7407例。「通常治療」群:163村、1万6588例)、非盲検で4年間観察された。

「積極降圧」群では村に在住のドクターが、試験プロトコルに従い降圧薬治療を調整した。加えて生活指導・服薬指導、さらに家庭血圧測定も指導した。また試験で用いる降圧薬は安価、あるいは無料で患者に届けられた。

一方「通常治療」群では通常診療通りの降圧治療が実施された。

「認知症発症」は試験終了時、神経学専門医が評価した。これらの医師には患者が割りつけられた治療群は知らされていない(PROBE法)。

【結果】

・血圧

その結果、試験開始時およそ「155/87mmHg」だった血圧平均値は、「積極降圧」群で「128/73mmHg」まで低下した。一方「通常治療」群では「148/81mmHg」までしか下がっていなかった。また「積極降圧」群では「<130/80mmHg」達成率も有意に高かった(67.7% vs. 15.0%)。

なお「積極降圧」群における「27/14mmHg」という降圧幅には、質疑応答で驚きの声が寄せられた。ちなみに同国で実施されたRCT“STEP”3)の「積極降圧」群でも、試験開始時146mmHgだった収縮期血圧は平均1.9剤の降圧薬で127mmHgまで低下している(PROBE法)。

・認知症

このような血圧低下に伴い「積極降圧」群では「通常治療」群に比べ、認知症発症リスクも有意に低下した。発症率は「1.12%/年 vs. 1.31%/年」、「積極降圧」群におけるハザード比(HR)は0.85(95%信頼区間[CI]:0.76−0.95)である。同様に「軽度認知機能低下」をきたすリスクも「積極降圧」群で有意に低くなっていた(HR:0.84、95%CI:0.80−0.87)。

【考察】

指定討論者のDaniel W Jones氏(ミシシッピ大学、米国)はこの結果を「降圧による認知症リスク減少の決定的なエビデンス」になりうると評価した。早期の論文化を待ちたい。

本試験は中国政府機関から資金提供を受けた。

TOPIC 3
厳格Na制限による血圧低下は糖尿病や降圧薬服用の有無、人種を問わず一貫─ランダム化クロスオーバー試験“CARDIA-SSBP”

Na制限による著明な降圧作用は、既に2001年のランダム化比較試験(RCT)“DASH Sodium”4)で証明されている。しかし同試験では「降圧薬服用例」「糖尿病例」が除外されており、これらに対する降圧作用は必ずしも明らかではなかった。そこでより幅広い対象でNa制限が血圧に及ぼす影響を検討すべく、ランダム化クロスオーバー試験“CARDIA-SSBP”が実施された。Na制限は降圧薬服用の有無を問わず血圧を低下させ、血圧が低下しない集団は一部に限られるようだ。Deepak K.Gupta氏(バンダービルト大学、米国)が報告した。

【対象】

CARDIA-SSBP試験の対象は「50~75歳」の米国在住者である。

導入基準の血圧に特に制限はなく、一定以上の低/高血圧(「<90/50」mmHg、「>160/100」mmHg)や治療抵抗性高血圧(降圧薬3剤以上でも管理不良)でなければ参加可能だった。降圧薬服用の有無も問わない。228例が登録され、試験を完遂した213例が評価対象となった。年齢中央値は61歳、女性が65%を占めた。また49%は降圧薬を服用しており、21%が糖尿病だった。

【方法】

これら213例はまず「通常食」で1週間経過後、「高Na負荷食」群と「低Na食」群にランダム化された。そして1週間観察後、逆の群にクロスオーバーしてさらに1週間追跡された(全員が「通常食」「高Na負荷食」「低Na食」すべてを経験)。

食事ごとのNa量は、「高Na負荷食」群が「通常食」に「Na 2.2g/日含有スナックの追加」、「低Na食」群は「Na摂取量=0.5g/日」(冷凍食とスナック、飲料支給)である。実施された検査は、24時間自由行動下血圧測定と24時間蓄尿(Na排泄評価)である。いずれも割り付け群食最終日(クロスオーバー前日)に実施した。

【結果】

・NaとK摂取量(降圧薬服用例を除外して評価)

24時間蓄尿から推算した1日Na摂取量(中央値)は、「通常食」最終日で4.45g、「高Na負荷食」最終日が5.00g、「低Na食」最終日は1.27gだった。

一方、尿中K排泄量には差を認めなかった。

・血圧(低下幅)

まず全例で「Na摂取量の変化が血圧に与える影響」を比較した。すると「通常食」最終日と比べて「高Na負荷食」最終日には、24時間収縮期血圧(SBP)平均値が1mmHgの高値となったものの有意差とはならなかった。

一方「低Na食」最終日の24時間平均SBPは「通常食」最終日に比べ5mmHg、有意に低くなっていた。

そこで「低Na食」最終日の24時間SBPを「高Na負荷食」最終日と比べると、低下幅は7.6mmHgとなった(有意)。そしてこの血圧低下(「高Na負荷食」→「低Na食」)は、「降圧薬服用の有無」「試験開始時血圧の高低(125/74mmHgの上下)」「糖尿病の有無」にかかわらず認められた。

目を引いたのは糖尿病例である。有意差ではないものの「低Na食」変更に伴う降圧幅は、非糖尿病例に比べ12 mmHgほど大きかった。糖尿病例の多くが降圧治療に難渋する点を考えると重要なデータだとGupta氏は評価している。

また人種差も存在しなかった。「食塩感受性が強い」と考えられているアフリカ系米国人と「さほど強くない」とされる白人間で、「低Na食」に伴う降圧幅は同等だった。

・血圧(降圧反応率)

次にNa摂取制限で血圧が低下した例と上昇した例の割合を調べた。その結果、74.4%では「高Na負荷食」最終日に比べ「低Na食」最終日には、程度の差こそあれ24時間SBPは低値となっていた。一方21.6%では逆に、SBPの上昇(傾向)を認めた。

これら「上昇」群では「低Na食」へのアドヒアランスが低かった可能性が、尿中Na排泄量検討から示唆されているとGupta氏は述べた。いわゆる「食塩感受性」の有無とは無関係と、同氏は考えているようだ。

・血圧(血圧管理状況の良否による影響)

最後に、血圧管理状況の良否が「低Na食」に伴う血圧低下に影響を及ぼすかが検討された。

全体を試験開始時の「血圧正常」「管理良好高血圧」「未治療高血圧」「管理不良高血圧」にわけて比較したが、いずれの群でも「低Na食」で「高Na負荷食」時に比べ24時間SBPは低値を示し、上記4群の血圧に有意なばらつきはなかった。

【結論】

以上よりGupta氏は、Na負荷は血圧を必ずしも上昇させるわけではないが、Na制限は降圧作用を示し、その降圧作用は降圧薬服用の有無を問わないと結論していた。

本研究は米国心肺血液研究所、米国心臓協会、米国国立衛生研究所から資金提供を受けた。

また報告と同時にJAMA誌ウェブサイトに掲出5)された。


【文献】

1) Lincoff AM, et al:N Engl J Med. 2023;389(24): 2221-32.

2) Forette F, et al:Arch Intern Med. 2002;162(18): 2046-52.

3) Zhang W, et al:N Engl J Med. 2021;385(14):1268-79.

4) M Sacks, et al:N Engl J Med. 2001;344(1):3-10.

5) Gupta DK, et al:JAMA. 2023;330(23):2258-66. doi: 10.1001/jama.2023.23651

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