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第177回:学会レポート─2025年米国心臓病学会(ACC)

登録日:
2025-05-28
最終更新日:
2025-05-28

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

3月29日から3日間、米国シカゴで米国心臓病学会(ACC)学術集会が開催された。本年は現地開催とWeb中継のハイブリッド形式である。ここでは新薬の話題に限らず、比較的身近な話題を紹介したい(4月上旬ウェブ速報を再整理)。

TOPIC 1
経口GLP-1RAで高リスク2型DM例のCVイベント抑制も、腎保護作用は観察されず:RCT“SOUL”

GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は数多くのランダム化比較試験(RCT)で、高リスク2型糖尿病(DM)例に対する心腎保護作用が報告されている。しかしいずれも使われたのは注射剤だ。そのため、経口GLP-1RAによる2型DM例臓器保護のエビデンスが待たれていた。

本学会ではその待望のエビデンス、RCT“SOUL”が報告された。心血管系(CV)イベントではプラセボに比べ有意な抑制を認めたが、注射剤で報告されていた腎保護作用は確認されなかった。またSGLT2阻害薬との併用は、費用対効果も考慮する必要がありそうだ。UTサウスウェスタン・メディカル・センター(米国)のDarren K. Mc-Guire氏が報告した。

【対象】

SOUL試験の対象は、血管系疾患(冠動脈疾患、脳血管障害、症候性末梢動脈疾患、慢性腎臓病の少なくとも1つ)を合併している50歳以上の2型DM患者9650例である。日本を含む世界33カ国から登録された。

平均年齢は66歳、HbA1c平均値は8.0%、DM罹患期間は中央値で14.5年強という長きに及んでいた。にもかかわらず推算糸球体濾過率(eGFR)は比較的維持されており、平均で74mL/分/1.73m2だった。なお、欧米人が多数を占めたためか、体重は平均で88kg、BMI平均も31kg/m2という高値だった。

【方法】

これら9650例は全例、DM・CV疾患標準治療を実施の上、経口GLP-1RA(セマグルチド3~14mg/日)群とプラセボ群にランダム化され、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」が1225例で発生するまで二重盲検法で継続された。

【結果】

・1次評価項目

平均47.5カ月間観察後、経口GLP-1RA群における「CV死亡・MI・脳卒中」ハザード比(HR)はプラセボに比べ、0.86(95%CI:0.77-0.96)の有意低値となった。治療必要数(NNT)は「167/年」。McGuire氏によれば、3年間では「50」になるという。

内訳を見ると、「CV死亡」「MI」「脳卒中」のいずれも一貫して、経口GLP-1RA群で減少傾向を認めた。両群のカプランマイヤー曲線は開始後半年を待たずに乖離を始め、その差はおよそ36カ月後まで開き続けた(その後はほぼ平行)。

一貫していたのは、事前設定された各種サブグループ解析も同様である。「年齢」や「性別」「BMIの高低」「参加地域」「SGLT2阻害薬併用の有無」はいずれも、経口GLP-1RAによる「CV死亡・MI・脳卒中」抑制に有意な影響を与えていなかった。

ただしSGLT2阻害薬「非併用」群(73.1%)では、経口GLP-1RAによる「CV死亡・MI・脳卒中」抑制NNTが「162/年」だったのに対し、「併用」群では「278/年」とかなり増えていた[同学会中公表Marx N, et al:Circ. 2025より算出]。

・2次評価項目

一方、2次評価項目である「複合腎イベント」(心腎死亡・永続的なeGFR「<15」/「半減」・腎代替療法への移行)は、両群間に有意差を認めなかった。経口GLP-1RA群におけるHRは0.91(95%CI:0.80-1.05)、カプランマイヤー曲線も最後まで乖離に向けた傾向は見られなかった。本試験と同様、心腎高リスク2型DM例を対象に、GLP-1RA注射剤を用いたRCT“SUSTAIN-6”とは対照的な結果である(GLP-1RA群で腎症発症・増悪は相対的に36%のリスク減少)。

【考察】

質疑応答では注射剤との使いわけが取り上げられた。すなわち、同薬注射剤で腎保護作用が証明されている以上、そのような作用が認められなかった経口剤は注射剤忌避に対するオプションという位置づけであるべきか、という問いである。しかしこの点につきMcGuire氏から明確な回答は聞かれなかった。

本試験はNovo Nordiskから資金提供を受けて実施された。同社は試験マネジメントとデータ解析も担当した(解析は他統計会社が検証)。さらに原稿執筆・編集補助の費用も同社が負担した。また論文著者18名中6名は同社所属だった。本試験は報告と同時にNEJM誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 2
INOCAの転帰改善に挑んだ大規模RCT “WARRIOR”:突出して多かったイベントは?

虚血症状を訴える女性の5割強は、冠動脈に有意狭窄病変を認めない─[Gulati M, et al:Arch Intern Med. 2009]。このような「非閉塞性虚血性冠疾患」(INOCA)が注目を集めている。「予後良好」と考えられていた時期もあったが、転帰は決して良好ではない。観察研究メタ解析における1年死亡率は3.4%。非心筋梗塞例と比べると、有意差には至らなかったもののきわめて高かった(オッズ比:3.7、P=0.09)[Pasupathy S, et al:Circ Cardio-vasc Qual Outcomes. 2021]。

そのため、転帰改善をめざした介入が必要となるが、エビデンスは稀薄だ。本学会ではその空白地帯を埋めるべく実施された、大規模ランダム化比較試験(RCT)“WA RRIOR”が報告された。その結果、現行治療下のINOCA例における、死亡や心血管系(CV)死亡の発生率は必ずしも高くなく、逆に狭心痛の管理が大きな課題として残っている可能性が明らかになった。フロリダ大学(米国)のEileen Handberg氏が報告した。

【対象】

WARRIOR試験の対象は、虚血性心疾患を疑う症状・症候がありながら「冠動脈に50%以上の狭窄を認めない」、あるいは「FFR>0.80」だった(INOCA)女性2476例である。全例、米国で登録された。心不全(HF)や弁膜症合併例は除外されている。

なお当初の試験設計では、4422例を登録予定だったが,コロナ禍などにより早期登録中止となった。

【方法】

これら2476例は全例生活指導の上、「強化治療」群と「通常治療」群にランダム化され、非盲検下で観察された(イベント判定者にはランダム化群が盲検化されている「PROBE」法)。

「強化治療」の内訳は、「高用量ストロングスタチン(アトルバスタチンかロスバスタチン)」、「忍容最大用量のACE阻害薬(リシノプリル)またはARB(ロサルタン)」、「アスピリン」の3剤併用である。

当初仮説は、これらによりCVイベントが5年間で相対的に20%減少する、というものだった。

【結果】

・患者背景

平均年齢は64歳、9割弱が白人だった。BMI平均値は32kg/m2で、21%が糖尿病を合併していた。82%が閉経後で、35%に喫煙歴があった。

さて「強化治療」の内訳は先述の通りだが、試験開始時既に両群とも約70%が、何らかのスタチンを服用していた。ACE阻害薬/ARBも同様で、両群とも約半数が服用、アスピリンの服用率も約6割だった。Handberg氏は、これにより「強化治療」の効果がマスクされた可能性を指摘している。

なお、試験開始時収縮期血圧平均値は約125mmHgとかなりコントロールされており、LDLコレステロール濃度もおよそ93mg/dLで決して高値ではなかった。

・1次評価項目

その結果、5年間の「死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中・HF/狭心痛による入院」(いずれか初発)発生リスクは、当初の見込みに反し「強化治療」群でハザード比は増加傾向を認めた(1.13、95%CI:0.94-1.37)。これら1次評価項目の内訳はどうか。両群とも最多は「狭心痛による入院」だった。80%を超える高値である。ちなみに試験開始時のCa拮抗薬服用率は27%、β遮断薬は38%だった。

一方、CV死亡は1%、非致死性MIも4%、脳卒中/TIAが5%、HF入院は2%のみだった(いずれも群間差なし)。

なお本試験の問題点として、先述した「症例数不足」と「スタチン・ACE阻害薬/ARBの対照群多用」に加え、ランダム化治療への低いアドヒアランスも指摘された。特に「強化治療」群では試験開始直後でさえ、アドヒアランスは5割程度でしかなかった(経時的にさらに低下)。

Handberg氏は現在、画像や生化学データを用いた解析を進めていると述べた上で、次のように結んだ。

「本試験の結果は“neutral”であり“negative”ではない。したがってスタチンやACE阻害薬/ARB服用中のINOCA例はそれらを中止すべきではない」。

本試験は米国国防省から資金提供を受けた。

TOPIC 3
安定慢性HFへの水分制限は原則不要?:RCT“FRESH-UP”

3月28日、日本循環器学会から「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」が公表された。2017年版からの大改訂である(2021年の「フォーカスアップデート」を挾む)。「水分管理」もその1つ。明確な推奨が示されなかった2017年版とは対照的に、「代償期の心不全における1日水分摂取量1~1.5Lを目標とした水分制限を弱く推奨する」と明記された。ただし「エビデンス不足」はガイドライン自体が認めるところで、ランダム化比較試験(RCT)“FRESH-UP”の結果が待たれると記されている。

本学会では、そのFRESH-UP試験が報告された。安定した慢性心不全(HF)例への水分制限は「不要」である可能性が高いようだ。ラドバウト大学(オランダ)のRoland RJ van Kimmenade氏が報告した。

【対象】

FRESH-UP試験の対象はオランダ在住で、診断から6カ月超経過しているNYHA分類「Ⅱ/Ⅲ」度の慢性HF 504例である。状態の安定していない例は除外されている。加えて「低Na血症」と「eGFR<30」例も除外された。

【方法】

これら504例は水分摂取「制限」群と「非制限」群にランダム化され、非盲検下で6カ月間、観察された。「制限」群では、1日水分摂取量を1500mLまでとするよう指導を受けた。ただし両群とも試験開始前に既に、「制限」群の44.4%、「非制限」群の48.8%が「水分摂取制限」指導を受けていた。

【結果】

・患者背景

平均年齢は69歳、67%が男性だった。NYHA分類は「Ⅱ」度が87%、左室駆出率平均値は40%である。NT-pro BNP中央値は、「制限」群が507.4ng/L、「非制限」群は430.0ng/Lだった(Δ77.4。検定なし)。

HF治療に関し、心保護薬は両群とも十分に使われていた。またループ利尿薬使用率も51%、平均用量はフロセミド換算で40mg/日だった。SGLT2阻害薬も「制限」群の64.8%、「非制限」群は56.7%が服用していた。

・飲水量

試験開始6週間後の1日水分摂取量(1週間分を自己申告)は、「制限」群が1480mL/日で、「非制限」群(1764 mL/日)より有意に抑えられていた(P<0.001)。

この点につきベイラー大学(米国)のShelley Hall氏は記者会見において、「非制限」群が(臨床試験とわかっているため)水分摂取を「自重」した可能性(48.2%は試験前に水分制限下)もあると指摘している。

・1次評価項目

その結果、1次評価項目である、試験開始から3カ月間のKCCQ-OSS〔HF例QOL指標(「高値」で「良好」)〕の推移は以下の通りだった。すなわち「非制限」群では「73.4 →74.0」と改善傾向だったのに対し、「制限」群では逆に「74.0→72.2」の増悪傾向を認めた(ただし変化量の差はP=0.06)。

なお記者会見においてvan Kimmenade氏は、両群のKCCQ-OSSが想定よりも10近く高く、その結果、改善を見込むのが困難だった可能性もあると述べた。またQOL評価を含まないKCCQ-CSSで評価すると「制限」群における有意改善を認めた。「しかし我々はQOLまで含めて評価したかった」(van Kimmenade氏)。

この結果はHF「rEF」「mrEF」「pEF」を問わず一貫していた。「糖尿病合併の有無」「血中Na濃度の高低」「退院時ループ利尿薬の有無」にも有意な影響は受けていなかった。

・2次評価項目

2次評価項目である「口渇苦痛尺度(TDS-HF)」は、「制限」群で有意に高値となっていた(18.6 vs. 16.9)。

・安全性

安全性は6カ月というスパンで評価した。しかし「死亡」(「制限」群:0.8% vs. 「非制限」群:0.4%)、「HF入院」(同:1.6 vs. 1.6%)、全入院(6.0 vs. 7.9%)、「ループ利尿薬静注」(2.8 vs. 2.0%)のいずれも、両群間に有意差はなかった。

本研究はオランダ心臓基金とマーストリヒト大学病院、オランダ心臓研究所から資金と援助を受けた。また報告と同時に、Nat Med誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 4
コルヒチンは安定冠動脈疾患例の不安定プラークには作用せず?:RCT“EKSTROM”

2017年にCANTOS試験が報告されて以来、「抗炎症」療法はアテローム動脈硬化性疾患に対する現実的な選択肢となった。臨床試験ではコルヒチンが頻用されており、安定冠動脈疾患例における虚血性心血管系(CV)イベント抑制作用が既に、ランダム化比較試験(RCT)“LoDoCo”と“LoDoCo2”で確認されている。しかしその機序は必ずしも明らかでない。

そこでコルヒチンが冠動脈プラークに与える影響を、冠動脈CT血管造影(CCTA)を用いて評価するRCT“EKS TROM”が実施され、本学会で報告された。少数例のパイロット研究という限界はあるが、コルヒチンは不安定プラークに作用しているわけではなさそうだ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)のMatthew J. Budoff氏が報告した。

【対象】

EKSTROM試験の対象は、コルヒチン適応のない、安定冠動脈疾患である。既に虚血性CVイベントに対する低用量コルヒチンの抑制作用が証明されている上述LoDoCo2試験と同様の患者が組み込まれた。84例がランダム化され、1年後に再評価できた72例(両群36例ずつ)が解析対象となった。

平均年齢は約65歳、94%が男性だった。血管保護薬の使用状況は、72%がストロングスタチンを服用、レニン・アンジオテンシン系阻害薬は42%、β遮断薬は47%が服用していた。

【方法】

コルヒチン0.5mg/日群とプラセボ群にランダム化し、二重盲検下で52週間観察した。その上で試験開始前後における冠動脈プラークの変化を、CCTAを用いて評価した。

【結果】

1次評価項目は、CCTA上「低輝度プラーク」(不安定プラーク)の体積である。LoDoCo、LoDoCo2試験で観察された虚血性CVイベント抑制の主な機序は、これら不安定プラークの退縮だと想定していたようだ。しかし1年後、仮説に反し低輝度プラーク体積は、コルヒチン群とプラセボ群間にまったく差を認めなかった(両群とも変化はほぼ皆無)。

一方、全プラーク体積で比較すると、コルヒチン群で著明な進展抑制を認めた。すなわち、血管内腔に占めるプラーク体積の割合(PAV)は、プラセボ群では1.40%増加していたのに対し、コルヒチン群では0.30%のみだった(P=0.015)。

【考察】

Budoff氏は「PAVがコルヒチン群で1.1%の低値になっていたのは、(対象が同様だった)LoDoCo2試験の結果と一致する」と考察した。というのも同試験で観察された、コルヒチン群における31%というMACE相対リスク減少率は、IVUS臨床試験メタ解析で示された「PAV 1%減少に伴いMACEリスクは相対的に25%減少する」という数字と類似するからだという[Iatan I, et al:JAMA Cardiol. 2023]。

なお同メタ解析では、PAV減少に伴うMACE抑制の機序として、血管床全体における「プラーク安定化」を挙げていた。

本試験はStanley W. Ekstrom Foundationから資金提供を受けて実施された。

TOPIC 5
HPVウイルス感染でCV疾患リスク40%増の可能性:観察研究メタ解析

2011年、少数例の検討ながら、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染に伴う心血管系(CV)疾患リスクの上昇が報告された[Kuo HK, et al:JACC. 2011]。

本学会ではこの点を調査した大規模観察研究の、初めてとなるメタ解析が報告された。その結果、血圧には悪影響を及ぼさないにもかかわらず、冠動脈疾患リスクは2倍に増加するという興味深い結果が得られた。コネチカット大学・ユーコン医学校(米国)のStephen Akinfenwa氏が報告した。

【対象】

解析対象となったのは、観察研究7報である(対象総数:24万9366例)。研究ごとの対象平均年齢は20~75歳。3報は米国から報告され、2報は韓国、そしてブラジルと豪州からが1報ずつだった。

【方法】

HPV感染の有無で2群にわけ、CV疾患リスクを比較した。観察期間は3~17年である。

【結果】

その結果、HPV「陽性」例では「陰性」例に比べ、CV疾患発症オッズ比(OR)が1.40(95%CI:1.21-1.61)の有意高値となっていた。冠動脈疾患に限れば2.00(同:1.29-3.10)である。一方、高血圧におけるORは0.96(0.68-1.36)だった。

HPV陽性例におけるCV疾患リスク上昇は、既往歴や家族歴、生活習慣、服用薬などを補正後も、有意だった。

【考察】

Akinfenwa氏は、HPV感染がCV疾患のいわゆる「残余リスク」(明らかになっていないリスク)である可能性を指摘した。その上でHPVワクチンがCV疾患を抑制する可能性があるのか、検討する必要があるとしている。

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