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第149回:学会レポート─2022年欧州糖尿病学会(EASD)

登録日:
2022-12-27
最終更新日:
2022-12-27

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

9月19日から5日間にわたり、欧州糖尿病学会(EASD)がストックホルム(スウェーデン)で開催された。
例年に比べ大規模臨床試験の報告が少なかったが、米国糖尿病学会との合同コンセンサスレポートが発表されるなど、学術的な話題は尽きなかったようだ。UKPDS試験44年観察など3報を紹介する。

TOPIC 1 UKPDS試験44年観察:早期血糖低下の心血管系イベント抑制「遺産効果」を認める唯一のRCT

2型糖尿病(DM)への血糖低下治療による、大血管症(心血管系[CV]イベント)抑制作用に「遺産効果」(Legacy Effect)─早期の厳格血糖低下が遠隔期のCVイベントを抑制─はあるのか。否定的なデータが続く中(後出)、「遺産効果」という概念そのものを生み出したUKPDS試験から、再び肯定的なデータが報告された。Rury R. Holman氏(オックスフォード大学、英国)の報告を紹介する。

簡単に振り返っておくと、UKPDS試験は新規診断2型DMを対象に「生活改善」(主に食事指導)と「メトホルミン」「インスリン、またはSU剤」の糖尿病性合併症抑制作用が比較された、英国のランダム化比較試験(RCT)である。25~65歳で「空腹時血糖値>108mg/dL」だった4209例がランダム化された1)

約10年間(中央値)観察後、「メトホルミン」群では「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」と「死亡」のリスクが有意に低下していたのに対し2)、「インスリン/SU剤」群ではリスク低下が認められなかった1)

しかし試験終了(通常DM治療に復帰)から10年後の評価では、元「インスリン/SU剤」群でも、「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」「死亡」リスクの有意低下が観察された3)。この結果から、早期血糖低下による「遺産効果」(遠隔期大血管症抑制作用)の存在が提唱されるようになった。

今回報告されたのは、上記UKPDS80からさらに14年間(試験開始から44年間)観察した結果である。ただし、参加23施設中、スコットランドと北アイルランド4施設のデータは、まだ含まれていない。

その結果、元「インスリン/SU剤」群ではやはり、元「生活改善」群に比べ、「心筋梗塞」「総死亡」とも有意なリスク減少が維持されていた。「心筋梗塞」ハザード比(HR)はUKPDS試験終了10年後の0.85(95%信頼区間[CI]:0.74-0.97)からその後14年間、一貫して元「生活改善」群よりも有意低値を維持し、最終的なHRは0.85だった(「総死亡」も同様。HR:0.87→0.89)。

元「メトホルミン」群でも、「心筋梗塞」「総死亡」リスク抑制は維持されていた。元「生活改善」群と比べた「心筋梗塞」HRは、UKPDS試験終了10年後の0.67(95%CI:0.51-0.89)から、さらに14年後の0.69まで、一貫して有意低値が保たれていた(「総死亡」も同様。HR:0.73→ 0.75)。

なお、これら元「メトホルミン」群におけるイベント減少は、元「インスリン/SU剤」群よりも早期から認められ、また減少率も大きい。メトホルミンは血糖低下以外の保護作用(抗炎症作用など)を有する可能性があるという。

結論としてHolman氏は、早期血糖低下による「遺産効果」は長期間にわたり維持されるとした。そして2型DM例に対する厳格血糖管理は可能な限り早期から実施すべきであり、近年、心腎保護作用が示された血糖降下薬を用いている場合でも、血糖値は正常値近くまで低下させるべきだと主張した。

なお、UKPDS試験と異なり対照群も血糖降下薬を服用したRCTでは、早期厳格血糖低下に伴うCVイベント抑制「遺産効果」は認められていない(ADVANCE-ON4)、ACCORDION5)、VADT6))。ただし、これら3試験の対象はUKPDSと異なり、「新規診断」2型DMに限定されていない。

TOPIC 2 出生児低体重で若年2型糖尿病発症リスク高:大規模観察研究

出生時体重が軽いと、成人後の2型糖尿病(DM)発症リスクが高くなることが知られている7)。では発症時期や2型DM表現型には、出生時体重別で差が生じるだろうか? Aleksander L.Hansen氏(ステノ糖尿病センター、デンマーク)が報告した、デンマーク大規模2型DMコホートである“DD2コホート”データを用いた検討結果を紹介する。

解析対象となったのは、デンマークで2010~18年までに2型DMと診断されてから2カ月以内の8190例中、出生時データが揃っていた6866例である。単生児以外や抗GAD抗体陽性例などは除外されている。

これら6866例を、出生児体重で3群にわけ、2型DM発症との相関を検討した。体重わけは、体重下限25%、上限25%、それらを除いた50%とし、結果、「<3000g」(低体重:1675例)、「3000-3700g」(通常体重:3525例)、「>3700g」(高体重:1666例)の3群となった。

まず、体重別に発症年齢ごとの有病オッズ比(PR)を比較したところ、出生時「低体重」群では「通常体重」群に比べ2型DM有病PRは、「45歳未満」(PR:1.28、95%信頼区間[CI]:1.10-1.48)、「45-<55歳」(同:1.32、1.20-1.46)で有意に高くなっていた。しかしその後「55-<65歳」では有意差がなくなり、65歳以上では「通常体重」群のほうがPRは有意に高くなっていた(年齢、性別、2型DM家族歴を補正後)。

一方、出生時「高体重」群では、「通常体重」群に比べ、若年ほど2型DM発症リスクは低く、加齢とともにリスクは上昇する傾向が見られた。「通常体重」群に比べ、PRが有意高値となるのは65歳を超えてからだった。

では、このような、出生時「低体重」と「高体重」群間の2型DM発症の背景に何があるのか。

Hansen氏らはまず、2型DM発症関連遺伝子の影響を多遺伝子リスクスコアを用いて検討した。しかし出生時体重間で差はなかった。また、「Cペプチド濃度」「HOMA 2」「HOMA2-β」も、出生時「低体重」群、「高体重」群いずれにおいても、出生時「通常体重」群と差は認めなかった。

本研究はSteno National Collaborative Grant 2020から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 3 EASD・ADA血糖管理コンセンサスレポート:ADA報告たたき台からの変更点を中心に

本年6月の米国糖尿病学会(ADA)でたたき台が示された、欧州糖尿病学会(EASD)とADA共同作成による、血糖管理のコンセンサスレポート最終版も本学会で発表された8)。たたき台に対しては、450を超えるコメントが寄せられたという。ここでは主な変更点に絞り、紹介したい。

第一に「Therapeutic inertia」(漫然治療:治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療の変更・強化がなされない)への警告が強調された。HbA1c目標値が達成されない場合、ただちに推奨アルゴリズムに沿った治療強化が求められる。

また、治療アルゴリズムにも若干の変更があった。 まず、欧米の2型糖尿病(DM)実態を反映し、「減量」が「血糖降下」と独立した治療目的となった。その結果、2型DM治療では、高リスク例に対する「心腎保護」、ならびに全例における「HbA1c目標値達成」と「減量」を「同時」にめざすとされた。ADA報告時はこれら目標の「順次達成」が許されるようにも理解できたが、明確化された。

一方、薬剤選択にあたっては「低血糖回避」も改めて強調された。

治療に関しては、身体活動、それも「24時間にわたる身体活動」の改善が新たに推奨されるに至った。24時間の身体活動を「Sitting」(30分に1回は起立)、「Sweat-ing」(「150分/週」以上の中等度強度身体活動、不活動日連続は2日まで、など)、「Stepping」(1日歩数の500歩増加、5~6分の早足歩き)、「Strengthening」(筋トレ、太極拳、ヨガ)、「Sleep」という5つの標語にまとめ、それぞれについての推奨を打ち出した。

中でも睡眠は「時間」(6~8時間)、「質」(途中覚醒を防ぐ)、「概日リズム」(夜型よりも朝方)という3つの観点からの評価・改善が推奨されている。

さらに「患者中心」治療の重要性強調も顕著となり、治療における「意思決定の共有」(SDM)と「糖尿病自己管理教育と支援」(DSMES)の重要性が改めて強調された。同時に、患者の置かれた社会経済的立場への配慮も、特に管理目標値不達成例では、必要とされた。

患者に対する「言葉遣い」についても言及があった。 まず、医療従事者に言葉の重要性を認識するよう促し、患者に対する言葉はすべて、「中立的」で「スティグマを感じさせず」、「事実に基づき」、「うまくいっている点に焦点を当て」、「尊敬の念を忘れない」べきだとした。さらに、「糖尿病患者」「不従順」などの言葉を使わないなどの注意も加えられた。

なお本報告では、コンセンサスレポート完成までの手順・経緯についても説明があった。作成に携わった14名は、可能な限り地理的な多様性が反映されるよう選ばれ、検討は2021年9月から主としてリモートで実施された。「推奨」として採用されるために必要な「賛成」の割合は、全体の60%以上だった。

【文献】

1)UKPDS Group:Lancet. 1998;352(9131):837-53.

2)UKPDS Group:Lancet. 1998;352(9131):854-65.

3)Holman RR, et al:N Engl J Med. 2008;359(15):1577-89.

4)Zoungas S, et al:N Engl J Med. 2014;371(15):1392-406.

5)ACCORD Study Group:Diabetes Care. 2016;39(5): 701-8.

6)Reaven PD, et al:N Engl J Med. 2019;380(23):2215-24.

7)Knop MR, et al:J Am Heart Assoc. 2018;7(23): e008870.

8)Davies MJ, et al:Diabetologia. 2022;65(12);1925-66.

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