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第153回:学会レポート─2023年国際脳卒中学会(ISC)

登録日:
2023-05-02
最終更新日:
2023-05-02

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

国際脳卒中学会(ISC)が2月8日から3日間、米国テキサス州のダラスで開催された。昨年と同様、ライブ映像をWeb配信するハイブリッド方式であった(Webからの質問も可能)。Late Breakerとして急性期治療が取り上げられることの多い本学会だが、本レポートでは予防・慢性期管理についてのトピックスを紹介したい。

TOPIC 1 「隠れ心房細動」は脳梗塞リスクを増やさず?―STROKE-AF試験延長観察

潜因性脳梗塞例に心臓モニタを植え込むと、1年間で12.4%に心房細動(AF)が検出される(通常診療では2%)1)。CRYSTAL-AF試験のこの結果を受け、通常診療では見逃されてきた「隠れAF」が脳梗塞リスクとなっている可能性が指摘されるようになった。興味深いことに、潜因性ではなく血栓性と考えられる脳梗塞(アテローム血管性、ラクナ)を対象としたSTROKE-AF試験でも同様に、心臓モニタ植え込みによる1年間AF検出率は12.1%だった(通常診療なら1.8%)2)

では検出された「隠れAF」例に対し、抗凝固療法を開始すべきだろうか? 現時点では明らかな答えはない。しかし本学会ではこの点に関し、示唆に富むデータが報告された。上述STROKE-AF試験の延長観察である。少なくともアテローム血管性脳梗塞・ラクナ梗塞既往例では、「隠れAF」は多発するものの脳梗塞の主な危険因子ではないようだ。Lee H. Schwamm氏(ハーバード大学、米国)の報告から紹介する。


STROKE-AF試験は血栓性と思われる脳梗塞既往を対象に、発症後10日以内の心臓モニタ植え込み群(242例)で通常診療群(250例)に比べAF検出率がどれほど改善するか、1年間観察したランダム化試験である。対象のCHA2DS2-VAScスコア中央値は「5.0」(脳梗塞予想発症率:6.7%/年)だった。すると先述の通り、心臓モニタ植え込み群では有意に多くのAFが検出され、検出率曲線の群間差は1年間を通して広がり続けた。

今回の解析対象は、上記結果からさらに2年間追跡できた心臓モニタ植え込み群148例と通常治療群の146例である(この患者群の背景因子は示されず)。

その結果、AF検出率曲線の群間差は試験開始から1年経過後も開き続け、最終的にAF検出率は心臓モニタ植え込み群で21.7%、通常治療群で2.4%となった(ハザード比[HR]:10.0、95%信頼区間[CI]:4.0-25.2)。植え込みモニタで検出されたAFの88%は無症候性だった一方、67.4%で1時間以上持続するAFが記録されていた。

ではこのような無症候性AF検出例に対して、積極的な脳梗塞予防を施行すべきだろうか。Schwamm氏の見解は、以下の知見から否定的だった。

まず36カ月観察後も、心臓モニタ植え込み群における脳梗塞発生率は通常治療群に比べ有意差こそないものの、高い傾向を認めた(17.0 vs. 14.1%、NS。抗凝固療法の要否は主治医が自由に決定)。そして何より、心臓モニタ植え込み群で脳梗塞を発症した34例中、発症前にAFが検知されたのは3例のみだった(経口抗凝固薬開始は3例中1例)。

つまり脳梗塞再発の多くはAF以外の(リスク)因子に起因する─。これが同氏の見立てである。ただしこれは血栓性脳梗塞既往例で得られた結果であり、潜因性脳梗塞では別の結果になる可能性もある。

なお脳梗塞既往のない例における、植え込みデバイスで検出されたAFへの抗血栓療法については、抗凝固療法施行と非施行を比較する非ランダム化比較研究“ART-CAF”3)(本年8月終了予定)、ならびにアスピリンとDOACを比較するランダム化試験“ARTESiA”が進行中である(終了予定は本年12月)4)

STROKE-AF試験はMedtronic Inc.から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 2 肝線維化で脳出血リスク倍増―UKバイオバンク解析

肝硬変例における脳出血リスクの上昇はよく知られている。またそこまで至らない肝線維化の時点でも、非外傷性脳出血の血腫増大リスク上昇5)、あるいは出血性梗塞リスク増加6)が報告されている。そして本学会ではNeal S. Parikh氏(コーネル大学、米国)が、ASTやALTなどに著明な異常を認めない例でも、無症候性肝線維化の合併により脳出血リスクが3倍近く高まっている可能性を示した。


解析対象は自主参加コホートUKバイオバンクに登録された、脳出血既往のない45万2994名である。急性肝炎の可能性がある例や血小板減少症は除外されている。これらを対象に肝線維化の有無(Fib4-index「>2.67」 vs. 「≦2.67」)と出血性脳卒中(脳出血・くも膜下出血)リスクの関係を検討した。

平均年齢は57歳、女性が54%を占めた。72%が高血圧を合併し、16%が抗血栓薬を使用していた。肝疾患既往があったのは0.6%のみ、肝線維化を認めたのは2%だった。またアルコール摂取量は、肝線維化群と非線維化群間に大きな差を認めず、メタボリックシンドローム合併率も30%弱で同等だった。

なお肝線維化群のAST中央値は35IU/L(四分位範囲:28-51)、ALTが22IU/L(15-34)、血小板数は16万/μL(137-186)であり、「脳出血リスクを懸念させるような(重篤な肝疾患を想起させる)値ではない」とParikh氏は述べた。

中央値9年間の観察期間中、1241例で出血性脳卒中を認めた。肝線維化群における発生率は0.89/1000例・年、非線維化群では0.30/1000例・年で、肝線維化群における出血性脳卒中発症ハザード比(HR)は、未補正で3.24(95%信頼区間[CI]:2.53-4.15)、諸因子補正後もHR:2.44(95%CI:1.79-3.31)の有意高値だった。肝線維化群におけるHR有意上昇は、「脳出血」(HR:2.23)と「くも膜下出血」(HR:2.49)に分けて検討しても同様だった。

さらに肝疾患既往例を除外した解析でも、肝線維化群におけるHRは2.43(95%CI:1.78-3.31)、また「血小板数<15万/μL」除外後もHRは2.72(95%CI:1.92-3.85)の有意高値だった。

Parikh氏は、肝線維化はその成因を問わず出血性脳卒中リスクを高めていると考えている。

なお本研究ではアポリポタンパクE(APOE)ε4、ε2と出血性脳卒中の関連も検討したが、有意な相関は認められなかった。

本研究は、米国国立衛生研究所とフローレンス・グールド財団から資金提供を受けた。

TOPIC 3 有害妊娠転帰で若年脳卒中リスク倍増―大規模観察研究

有害妊娠転帰に伴う心血管系(CV)疾患リスク上昇はよく知られており、2021年には米国心臓協会(AHA)も注意喚起の学術見解7)を公表している。

しかしこのCVリスク上昇が何歳くらいから認められるかを示すデータはない。そのような認識のもと有害妊娠転帰を有する女性の脳卒中発症年齢を検討した長期データが、Eliza C. Miller氏(コロンビア大学、米国)により報告された。その結果、有害妊娠転帰を経験した女性では45歳になる以前から、脳卒中リスクの有意上昇が認められた。


解析対象となったのは、フィンランド全国レジストリであるFINNGEN研究から抽出した経産女性13万764名である。初産時年齢平均値は26.8歳、出産回数平均は2.2回だった。これらを有害妊娠転帰の有無で分け、長期の脳卒中発症状況を比較した。

各群の内訳は、有害妊娠転帰「なし」が82.3%、「1回」経験が14.9%、「複数回」経験が「2.8%」だった。

出産後52年の間に13万764例の5.4%が、脳卒中を発症した(出産後1年以内に発症した脳卒中は除外)。3群の発生率曲線は40歳時にはすでに乖離を始めており、55歳前後まで差は開き続けた(「複数回」が最多、「なし」が最少)。

脳卒中初発の年齢中央値は、有害妊娠転帰「なし」が58.5歳、「1回」は54.6歳、「複数回」ならば51.3歳である(群間差の検定は示されず)。

そこで「45歳以下」で脳卒中を初発するリスクを検討すると、諸因子補正後オッズ比は、有害妊娠転帰「1回」で「なし」に比べ1.7(95%信頼区間[CI]:1.4-1.9)、「複数回」では2.1(95%CI:1.5-2.8)の有意高値となっていた。

上記の結果は、一過性脳虚血発作(TIA)を除外しても同様だった。

Miller氏は有害妊娠転帰が脳卒中リスクを上昇させるファクターであるのかどうかは不明としながらも、脳卒中高リスク例を特定するマーカーとしての有用性を強調していた。

本研究には申告すべき資金提供はないとのことである。

TOPIC 4 多職種参画のバーチャル遠隔リハビリ追加で患者「自己効力感」が改善―RCT

脳卒中後のリハビリテーションは有用だが、交通手段やスケジュールの都合で施設リハビリに参加できない患者も存在する。また身体機能の低さゆえに参加を忌避する患者もいるという。さらにリハビリテーションで身体状況が改善しても、患者日常生活の改善程度、あるいは生活を支える介護士の負担などは必ずしも把握されていない。

このような背景のなか注目されるのが、遠隔リハビリテーションである。しかしランダム化比較試験(RCT)22報を対象とした2020年のコクランレビューでは遠隔リハビリの有用性は確認されなかった8)

これに対し、従来型の遠隔リハビリと異なり、IT技術を活用した多職種が参画するバーチャルクリニック(脳卒中ケア多職種参画バーチャルクリニック:VMSCC)による遠隔リハビリならば、日常生活における患者の「自己効力感」(自分がある行動を遂行し得るという認識)を改善できるようだ。香港中文大学で看護学教授を務めるJanita Pak Chun Chau氏が報告した。


介入の対象となったのは、18歳以上で脳卒中発症から3カ月以内の274例である。香港の10公立病院から登録された。コミュニケーションに問題のある例は除外されている。平均年齢は62.3歳、61.2%が男性だった。84.7%が脳卒中初発、NIHSS「0-4」が83.0%を占めた。

これら274例は通常リハビリテーション群と、それにVMSCC遠隔リハビリを加えた2群にランダム化され、6カ月間観察された。

評価項目は、リハビリ前後における自己効力感の変化である。脳卒中自己効力感質問票(Stroke self-efficacy Questionnaire:SSEQ)で測定した。

VMSCC遠隔リハビリの概要は以下の通り。

(1)患者都合に合わせた看護師との月1回のビデオ面談

(2)タブレット使用オンライン情報サイトへのアクセス→ 12分野にわたる新規作成89本のショート動画(10時間)

・患者・介護者双方に有用な情報を提供
・他職種が連携して制作
・ビデオ面談ではどの動画を見るべきかも指示
・タブレットの使い方は試験開始時に介護士が患家に赴き指導

(3)家庭血圧測定結果の自動送信→看護師がチェック

その結果、VMSCC遠隔リハビリ追加群のSSEQは通常リハビリ群に比べ、3カ月後では有意差を認めないものの、6カ月後には4.6ポイントの有意な改善を認めた。

本研究は今後、さらに長期の観察を続けるという。

なお当初はVMSCC遠隔リハビリが介護士に及ぼす影響も検討する予定だったが、コロナ禍で十分な人数が登録されず、検討できなかったとのことである。しかしコロナ禍の沈静化を見据え、これから参加介護士も増やしていくつもりのようである。

本研究には申告すべき利益相反はないとのことである。

TOPIC 5 脳卒中後の大規模食事評価から見えた実態と課題

食事による脳卒中1次予防の有用性は、DASH食9)や地中海式食10)などで報告されている。一方、2次予防についての大規模検討はないという。また2次予防例では後遺症、あるいは疾患が家計に及ぼす影響など、通常と異なる食事への影響も考慮する必要もあるだろう。

このような問題意識から、脳卒中既往例を対象とした初の大規模食事実態調査が報告された。脳卒中後にもかかわらず食事の質は決して高くなく、脳卒中後遺症がその一因となっている可能性も示唆された。定量化に欠け、決してconclusiveではないものの、脳卒中後の食事に関する問題点に光を当てた貴重な研究と思われる。報告者はErika Zoellner氏(テキサス・ウーマンズ大学、米国)。栄養・食品科学の博士課程に在籍しつつ、臨床現場にも立つ栄養士である。


同氏らが解析対象としたのは、脳卒中既往を有する1626例と、年齢・性別をマッチさせた脳卒中既往のない1621名。いずれも米国全国無作為調査であるNHANES(全国健康・栄養調査)1999~2018年データから抽出した。既往例と非既往例ではNHANESに記録された時期もマッチしている。

そしてこの2群間で食事を比較した。比較にあたって評価されたのは、マクロ栄養素とミクロ栄養素の摂取量、そして健康食指数(HEI)スコア。HEIは米国政府が推奨する「米国人向け食事ガイドライン」(DGAs)へのアドヒアランスを評価する指標である(「50以下」ならば「要改善」、実臨床における改善目標値は「80-90」)。また食事の質を規定している因子も探索した。

その結果まず、脳卒中既往群では対照群に比べ、総エネルギー摂取量が相対的に24%(8.3kcal/kg/日)の有意低値となっていた。これは減量を目指した結果とも考えられるが、脳卒中既往群では摂取エネルギーに占める脂質の割合が高く(50.9 vs. 40.4%)、ミクロ栄養素摂取状況もおおむね対照群よりも悪かった。例を挙げると95.3%でナトリウム過剰摂取、99.2%でカリウム摂取不足、93.2%で繊維質摂取不足を認めた。すなわち食事の「質」そのものが低かったと考えられる。

また脳卒中既往群のHEIスコアは「要改善」とされる「50未満」(49.8)であり、対照群の「51.9」に比べ小差だが有意に低かった。

次に食事を規定しているであろう背景因子を整理した。すると脳卒中既往群では、適切な食品安定入手不可(Food Insecurity)を訴える例が対照群の2倍以上に上った。Zoellner氏は脳卒中による就業不能や高額医療費が一因となっている可能性を考えている(ただし脳卒中発症前からの変化を検討したデータはない)。

また既往群では「記憶混濁」や「身体活動の制限」、「摂食困難」、「食事準備の困難さ」、「一人では(これまでの)食事を思い出せない」─なども(食事に関する制限とする)回答として多く挙がっていた。

先述した通り、脳卒中既往群の食事は決して健康的ではない。Zoellner氏はこれらの要因が健康な食事の実現を妨げている可能性を指摘した。そして脳卒中既往群に食事介入する際には食事の質だけでなく、そのような背景も考慮する必要があると結論している。

本研究には報告すべき利益相反はないとのことである。

【文献】

1) Sanna T, et al:New Engl J Med. 2014;370(26):2478-86.

2) Bernstein RA, et al:JAMA. 2021;325(21):2169-77.

3) Yang Y, et al:Cardiovasc Drugs Ther. 2018;32(4): 389-96, ChiCTR1800016221.

4) Lopes RD, et al:Am Heart J. 2017;189:137-45, NCT01938248.

5) Parikh NS, et al:Stroke. 2020;51(3):830-7.

6) Yuan CX, et al:Front Neurol. 2020;11:867.

7) Parikh NI, et al:Circulation. 2021;143(18):e902-6.

8) Laver KE, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2020;1 (1):CD010255.

9) Chiavaroli L, et al:Nutrients. 2019;11(2):338.

10) Rees K, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2019;3 (3):CD009825.

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