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【マンスリーレクチャー】在宅医療 はじめの一歩(第36回・完)[プライマリケア・マスターコース]

No.4689 (2014年03月08日発行) P.44

髙橋昭彦 (ひばりクリニック院長(栃木県宇都宮市))

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-12

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はじめに

外来─在宅ミックス型の診療形態としてよく取り上げられるのが,午前中は外来診療を行い,午後から在宅医療を行う診療形態1)であるが,午前に在宅,午後に外来という場合や,午前と夕方に外来を行い,昼休みから夕方にかけて在宅医療を行う場合もある。

外来─在宅ミックス型の診療は,どの地域でも行うことができる。また,古くから町医者やかかりつけ医と呼ばれる医師が行ってきた「外来に通えなくなったら往診」という形も当たり前に取ることができ,外来から在宅への移行もスムーズである。

しかし,外来─在宅ミックス型の診療所の多くは,常勤医師1人体制である。24時間体制を実施するためには,同じエリアの連携医や訪問看護ステーションとの協働が重要である。

本稿では,在宅医療に特化した診療所と並んで,今後わが国の在宅医療の重要な担い手として期待される外来─在宅ミックス型の診療所について,ひばりクリニック(以下,当院)の実例を交えて述べる。

ひばりクリニックの在宅医療

2002年に開業した当院は,在宅医療,家庭医,市民活動支援を運営理念とする無床診療所である。そのため,開業時から午前中は外来診療,午後は在宅医療という形でスタートした。
在宅医療を希望する患者は年々増え,現在では週4日は午前中のみ外来診療を行い,ほかの時間の大半を在宅医療およびその関連業務に当てている。

当院では,年齢や疾患を問わず在宅医療を行っている。2013年12月1日現在の在宅患者は50名であるが,このうち小児期・移行期の患者は12名(4~25歳)である。当院には訪問看護師やケアマネジャーはいない。そのため,在宅医療以外の機能はすべて外部にゆだねている。在宅で最期まで過ごすための在宅緩和ケアも行っており,年間の看取り数はおよそ15名前後である。

週間スケジュールと診療の実際

当院の週間スケジュールを表1に示す。木曜日はパートの医師が外来診療を担当する。

外来は9~12時で,小児科と内科を中心に診療を行っている。外来患者数はおおむね20~30名である。検査は,尿,血液,心電図,超音波検査が可能であり,X線検査やCT,MRI,内視鏡検査などは外部の医療機関に依頼する。外来には医師1名,看護師2名,事務員3名が関わるが,事務員の1名は在宅医療の準備のため,電子カルテに訪問患者を登録して処方せんの下書きやカニューレなど必要な医療物品の確認を行う。当院では,在宅医療に必要な事務作業や調整作業を教育した上で,その大半を事務員にゆだねている。

医師は,外来診療が終わると処方せんをチェックして印刷する。在宅用の電子カルテはノートパソコンに入れて持ち歩く。患者宅では診察時に患者や家族の話をゆっくりと聞くように心がけており,電子カルテは移動中に入力することが多い。そのため,定期訪問の際は運転手(シルバー人材センターに委託)を確保している。看護師は同行しない。

午後は14時過ぎから在宅医療を開始する。半日を1コマとすると,1コマ当たりの定期訪問が4~6人で,グループホームや有料老人ホームなどの訪問では1軒当たり3~4人診ることもある。1カ月当たりの訪問診療(定期的な訪問)は100回前後である。

24時間体制の実際

当院は,3つの診療所でグループを組み,機能強化型の在宅療養支援診療所として届け出ている。3つの診療所は同じ電子カルテを使用しており,それぞれが作成している在宅患者カルテをすべての医師が共有している。また,3つの診療所と訪問看護ステーション,調剤薬局等で毎月在宅ミーティングを行い,情報交換を行っている。外出する際には連携医にあらかじめ連絡をしておく。

なお,3つの診療所の医師は,お互いの診療所の非常勤医師となっている。これによって,ある診療所の医師が不在で連携医が臨時の往診をする時は,その診療所の医師として出動することが可能となる。

3つの診療所では連絡窓口の一本化を行っており,窓口となる携帯電話は事務当直が交代で持つ。在宅患者との契約の際には,連絡窓口の電話番号,担当する訪問看護ステーションの電話番号,医師(当院および連携医)の連絡先(携帯電話含む)が記載された書類を渡す。原則として,訪問看護ステーションにファーストコールを依頼してあり,訪問看護師と電話でやりとりを行い,必要な指示や取り置きの薬による対応で済むことも多い。

2012年11月1日から2013年10月31日までの1年間の臨時の往診は25回,うち夜間や深夜の出動は4回であった。昼間の対応をしっかりと行い,訪問看護ステーションとの連携を強化しておけば,臨時の出動はそれほど多くない。

在宅医療と専門性

在宅医療においては,一般的な診療や全身管理に加えて,胃ろうや気管切開,尿道留置カテーテルなどの医療デバイスの管理,褥瘡のケア,疼痛管理を含む緩和ケアなどを行うことが一般的である。また,自分の専門性を生かして,整形外科出身の医師が在宅医療の現場で骨折の治療を行う,麻酔科出身の医師が仙骨ブロックを施行する,ということもある。

在宅医療を担う医師にはそれぞれ母体となる専門性があるが,在宅医療の現場で行われている処置や手技などは非常に幅広く,すべてに精通することは難しい。そのため,必要に応じて,その分野に詳しい関係者にコンサルテーションをしながら診療を行っているのが実状である。

在宅医療において大切なことは,生活重視,あるいはキュアからケアへという考え方である。そのため,処置や手技などに関しては病院のやり方をそのまま在宅に持ち込むのではなく,在宅における介護力や環境,患者本人や家族の希望,関わるスタッフの状況などを勘案した上で,アレンジをすることも必要である。

筆者が当院開業前,在宅医療を始めた1988年頃は,在宅医療に関する学会やネットワークはほとんどなかった。そのため,不定期だった往診を定期的に行い,地域のケア会議を開きながら試行錯誤で在宅医療を行っていた。今では,日本在宅医学会をはじめ多くの学会や研究会があり,関係者のネットワークも広がっている。自分の知識や経験が足りないところは,多くの人に教わりながら,できる範囲で行うとよい。

病院との連携

外来─在宅ミックス型の診療形態に限らず,在宅医療において病院との連携は重要である。地域の拠点となる病院には,退院調整や地域連携を担当する部門(以下,連携部門)がある。在宅医療を新たに始める際には,主な病院の連携部門を訪れて,顔と名前を覚えてもらい(名刺は必携!),訪問エリアと,どのような状態の患者なら受けられるかという守備範囲を伝えておくとよい。また,退院前カンファレンスの打診があった場合は,可能な限り在宅チームとともに参加するようにする。病院と診療所の役割分担を確認しておくと,その後の連携がスムーズにいく。

末期がん患者に在宅医療を行う場合,「がん診療連携拠点病院」で毎年開かれている「緩和ケア研修会」に一度は参加しておきたい。これは,2日間の日程で一定のプログラムに基づいて行われているものであり,緩和ケアの概念,医学的知識,コミュニケーションについてのロールプレイ,地域連携など,在宅緩和ケアに必要なことを学ぶ場となり,顔の見える連携のきっかけともなる。

訪問看護ステーションとの連携

外来─在宅ミックス型の診療所の場合,避けては通れないのが,外来診療中に在宅患者が急変した時にどうするのかということである。当院では前述のように訪問看護ステーションにファーストコールを依頼しているので,急変時にはまず訪問看護師に連絡がいく。訪問看護師が訪問し,医師はその状況を電話で聞き,臨時で投薬を行う,点滴治療を開始する,往診を待つ,救急車を呼ぶなどの判断を行う。

在宅医療は基本的に院外処方となるので,臨時の処方が必要な場合には処方せんを発行するが,訪問薬剤師がいる場合には調剤と薬剤の管理を依頼する。点滴は,あらかじめ訪問看護ステーションや患者宅に当院の在庫を置いておくこともある。往診の依頼を断ることはないが,外来中や遠方への訪問中には時間を要することがあり,訪問看護ステーションとの連携と協働は当院のような外来─在宅ミックス型の診療所ではきわめて重要である。

なお,診療所と患者宅の距離が近い場合には,病状と外来の状況によっては外来中に臨時の往診をすることもある。その際は,外来患者に「お待たせして申し訳ありません」と謝罪して理解を求めている。

おわりに

開業して11年が過ぎた。在宅医療の依頼は増えたが,開業してしばらくの間は外部からの依頼ばかりだった。しかし,何年か経つうちに,進行がんになる,認知症を発症する,高齢で寝たきりになるなどの理由で,外来患者の中から在宅医療の依頼を受けることも増えてきた。

患者は,治療の場所が変わる時,方針が変わる時,そして主治医が変わる時に不安になる。診療所に通う外来患者が通院困難となった時,あるいは何らかの疾患で入院し介護が必要な状態で退院する時は,別の医療機関に在宅医療を依頼するよりも同じ診療所で在宅医療を受けることができれば,お互いの不安は減るだろう。

また,ひとたび関係性ができた家族との結びつきは,在宅患者を看取った後も継続する。故人の家族が受診を続けることはグリーフケアにもなりうる。また1軒の家で,年月を越えて複数の看取りを行うこともある。外来診療の延長線上に在宅医療はある。また,在宅医療から外来診療への拡がりもあると実感している。


◉文 献

1)‌林 泰史, 他, 監:日本医師会生涯教育シリーズ 在宅医療─午後から地域へ. 医学書院, 2010.

Q
連携医をどう確保するのか?

A
連携グループ,在宅ケアネットワークなどから情報を得る
●‌必要な時,自分の代わりに往診をする医師が連携医である。そのため,お互いの立場や方針を尊重し,コミュニケーションが取れる医師を確保することが大切である。
●‌在宅医療を行う医療機関の情報は,地元の医師会や訪問看護ステーション,ケアマネジャーなどから得ることができる。在宅療養支援診療所の情報は,一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会(http://www.zaitakuiryo.or.jp/)にもアップされている。機能強化型の在宅療養支援診療所は,常勤医師3名を確保することが条件の1つであり,すでに存在している連携グループに入る場合と,自ら連携グループを作る場合がある。自らグループを作るには最低2名の医師に声をかける必要がある。
●‌地域によっては,「〇〇在宅ケアネットワーク」などの名称の多職種連携を目指すネットワークがある。ネットワークに入って積極的に集会に参加し,メーリングリストでも発言することで生きた情報を得ることが可能である。ネットワークに入っている在宅医は,活動的で,優しく,人間味あふれる人が多い。要は,専門性よりも人間性である。

Column
連携と情報共有の工夫
在宅医療における連携や情報共有を行うための工夫を紹介する。

在宅医療を始めると,連携している事業所や病院,家族などから様々な連絡や相談が入る。外来中に訪問看護師やケアマネジャー,退院調整看護師からの電話が入ることも少なくない。当院では,事務員が電話に出て医師が診療中であることを伝えた上で,ある程度の内容を聞く。緊急時には,すぐに医師が折り返し電話をし,それ以外の場合には,事務員が聞いた内容をまとめた上で医師に伝える。よく連携している訪問看護ステーションからの電話の場合には,医師が判断した内容をまた事務員を介して伝えてもらうこともある。

新規在宅依頼の場合も,患者の居住地,病状,家族状況,必要な医療的ケア,薬などに関する情報や,現在の主治医,介護保険の申請は済んでいるのか,ケアマネジャーや訪問看護は入っているのかなどのポイントについて事務員が聞く。

情報共有において多用しているのが,電子メールである。患者には,あらかじめ個人情報を共有する了解を得ている。緊急性はないが重要なものについては,電子メールで情報共有を行う。電子カルテの中身をテキストファイルとし,個人名を伏せて訪問看護ステーション,調剤薬局,ケアマネジャー,病院の退院調整部門などに同報通信として一斉にメールを送信する。返事もすべての人に返信してもらい共有する。そのため,誰が読んでもわかるようにカルテは日本語で書くようにしている。

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