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相良知安(7)[連載小説「群星光芒」262]

No.4851 (2017年04月15日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2017-04-16

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  • 山内容堂知学事と学校権判事相良知安の双方から意見聴取をする審議会は明治2(1869)年2月23日、京都九条邸の大広間にて開催された。

    会議の名目は「外国の医療事情と今後のわが国の医療政策に関する審議」とされたが、出席した高官たちは「容堂侯が推すイギリス医学を選ぶか、それとも鍋島侯の侍医相良知安が主張するドイツ医学を導入すべきか、両者が対決する場である」とだれもが心得ていた。

    大広間の上座には議定の中山忠能と太政官副総裁の岩倉具視が並んで座り、左右に居流れて参与の木戸孝允、大久保利通、後藤象二郎、島津久光、鍋島直正、山内容堂、松平慶永、伊達宗城、秋月種樹ら諸侯が威儀を正して座していた。

    知安は同僚の岩佐 純とともに二の間の敷居ぎわに座らされ、その後ろに事務方や書記らが控えた。

    知安は気を落着かせようと『易経』の「乾は元いに亨る、貞しきに利ろし」を思い浮かべた。「乾」とは天であり、男であり、健である。この会議でドイツ医学導入を主張し、その意見が正しければ「元いに亨る」、すなわち万事はうまくいくだろう。

    しかしそれには「貞しきに利ろし」、すなわち正当な筋道を通すことが必須である。

    ――そして道理は葉隠武士たる拙者の側にある。イギリス医学採用を独断で決しようとする容堂侯の側にはありえぬ。なんぞ恐るに足りようか。

    あくまで強気の知安が丹田に力を込めている一方、岩佐は顕官列座のいかめしい雰囲気に恐れをなして身を縮めていた。

    会議は進行役の秋月種樹によって始められた。秋月は日頃の磊落さに似合わぬ神妙な面持ちでおごそかに申し渡した。

    「学校権判事の相良知安。その方、このたび英国人医師ウィリアム・ウィリスを日本医学総教師としてイギリス医学採用に相成ることにつき学術の最高責任者たる知学事に異議を唱え、ドイツ医学を導入すべく主張していると聞く。それには相当の理由があろうゆえ、その方の所存をこの場にて忌憚なく申し述べよ」

    満座の視線が一斉に末座の知安に注がれた瞬間、
    「あいや、待たれよ」
    と山内容堂が知安を押しとどめるように手掌を立てた。

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