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浅田宗伯(13) [連載小説「群星光芒」250]

No.4839 (2017年01月21日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2017-01-22

最終更新日: 2017-01-17

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  • 樋口一葉の父樋口則義が脚気を患ったのは明治15(1882)年の初夏だった。しかし警視庁の下僚である則義は家計を考えて医治を受けずにやりすごそうとした。
    心配した一葉は澄庵の娘汎子に父の容態を話した。汎子は樋口家の暮し向きが楽ではないと知っていたから、家伝の脚気薬をそっと手渡していった。

    「この薬をお父様に飲ませるといいわ。これはハトムギを細かく砕いて篩に掛けた粉末なの。それに忍冬と大黄と硝石が混ぜてあって脚気によく効くのよ」 
    「ありがとうございます」

    一葉は11歳の少女に似合わぬ大人びた声で頭を下げて薬袋を受け取った。
    それから1つ質問をした。

    「父はあまり御腹が丈夫でないの。お薬が合うかしら?」

    「大丈夫よ」と汎子は答えた。
    「ハトムギは御腹にとてもいいの。でもこの薬のことは絶対に他所の人に教えてはだめよ」と念を押した。
    一葉から遠田家の脚気秘薬を受け取った樋口則義は服用する前に、警視庁の上司に澄庵の脚気薬の件を報告した。
    天皇の脚気の既往を知る警視庁幹部は、念のため宮内省に澄庵の脚気薬の分包を持参してその中身を伝えた。

    「宮中の洋方侍医団は澄庵の脚気家伝薬がハトムギを主剤にしたものと知って跳び上るほど悦びました」

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