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浅田宗伯(12) [連載小説「群星光芒」249]

No.4838 (2017年01月14日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2017-01-15

最終更新日: 2017-01-10

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  • 漢方医と洋方医の待遇格差は腹立たしかった。しかし温厚な了庵さんはわしの怒りを鎮めるように話題を変えた。

    「治療成績の報告会が終わったあと、全員で上野の八百善に席を移して慰労会が開かれました」

    了庵さんは淡々とその場の雰囲気を語った。「宴たけなわになると長谷川事務長は澄庵さんを遊里に誘い出したのです。澄庵さんも高給取りがおごるのは当然だといった顔をして事務長についてゆきました。手前が後で聞いた話ですが、2人は俥を駆って根津遊郭の大八幡楼に登楼したそうです。そこで長谷川事務長は澄庵さんをさんざん酔わせて脚気秘薬の処方を訊き出そうとしたのですが、相手はうわばみのようでどれだけ飲んでもビクともしません。かえって長谷川事務長がへべれけになり、目論みは失敗したそうです」

    内務省の長與專齋局長は漢方撲滅を目指す施策を着々と進めていた。
    その先触れは昨年(明治12年)の2月24日に内務省衛生局が布達した全国統一の「医師国家試験 実施要綱」だった。
    試験科目は「理学、化学、解剖学、生理学、病理学、薬物学、内科学及び外科学の西洋7科」としたうえ、医学校卒業生は無試験で開業許可を与えるという。

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