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ながらスマホの事故件数は?

No.4818 (2016年08月27日発行) P.62

小塚一宏 (愛知工科大学工学部情報メディア学科教授)

登録日: 2016-08-27

最終更新日: 2018-11-27

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最近,スマホを使用しながら道を歩く人が多くみられます。いわゆる“ながらスマホ”による,衝突などの事故件数の増加や,歩くスピードの減少で交通の妨げになっていることを示す具体的なデータはあるのでしょうか。

(質問者:兵庫県 K)


【回答】

ここ数年におけるスマートフォン(スマホ)の急速な普及に伴い,歩行中や自転車運転中に使用する“ながらスマホ”による事故が増加しており,社会的な課題となってきました。特に“歩きスマホ”は,駅のホームや階段,エスカレーター,横断歩道など街中の公共場所の至るところで多くの人に見受けられます。

東京消防庁の調べによると,2011~15年の5年間で“歩きながら,自転車に乗りながら”などの携帯電話,スマートフォンなどに係る事故により少なくとも172人が救急搬送されました。2011~13年の3年間は年々増加し,2014年は前年より少し減少しましたが,2015年は再び増加しています(図1)1)。場所別では,道路・交通施設が139人で約80%強を占め,その中でも駅での発生が39人で全体の22.7%となっています。また,一歩間違えば重大事故につながる恐れのある駅ホームから線路上に転落する事故により,2011年に3人,2012年に1人,2013年に4人,2015年に5人が救急搬送されています。


国土交通省のホームページによると,鉄道会社から同省に報告された件数(事故の実数ではありません)ですが,“スマホ・携帯電話使用”中にホームから転落した人は,平成22年度から同26年度までの5年間では11人,18人,19人,45人,32人となっており,全体的には年々増加傾向にあると言えます2)。駅のホームや道路・横断歩道など公共の場所では,一歩間違えば重大事故につながる恐れがあるため,十分気をつけて頂きたいと思います。これらの場所では,自分が被害者になるばかりでなく,まったく関係ない人を事故に巻き込んでしまう危険性があり,この場合には加害者となって責任を問われます。

筆者らが名古屋市中区栄交差点の横断歩道で行った実験では,“歩きスマホ”中は視線が画面に集中し,周りをほとんど認識できないことが明らかとなりました。また,“歩きスマホ”時の歩行速度は通常歩行時に比べて約20~30%低下します。これらの研究概要をテレビ・新聞などのマスコミに発表することで社会にたびたび注意喚起してきました。また,研究成果を2016年3月に(一社)電子情報通信学会の研究会で発表しました3)。なお,日本自動車連盟(Japan Automobile Federation:JAF)が実施した実験でも,同様な結果が得られています。人間の動作なので個人差がありますが,スマホ使用者が歩行者の流れの中でゆっくり歩いて交通の妨げになっている光景は街中でよく見かけます。

“自転車運転中のスマホ”使用の危険性についても少し述べます。2008年6月の改正道路交通法の施行により,自転車運転中の携帯電話・イヤホンなどの使用が規制されました。しかし,その後も自転車の危険な運転が後を絶たず,2015年6月に新たな改正道路交通法が施行されて罰則が強化されました。筆者らの実験では,“自転車運転中のスマホ”使用は“歩きスマホ”と同様に視線が画面に集中して周りの状況をほとんど認識できておらず4),スピードが出るだけに“歩きスマホ”以上に非常に危険です。スマホ使用中に限りませんが,自転車運転者が歩行者相手に重大な事故を起こして加害者責任を問われて5000万~9500万円の賠償を命ぜられる判決が出ています。十分に気をつけて頂きたいと思います。

【文献】

1) 東京消防庁:歩きスマホ等に係る事故に注意!
[http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201602/mobile.html]

2) 国土交通省:スマホ・携帯使用中のホームからの転落.
[http://www.mlit.go.jp/common/001021265.pdf]

3) 尾林史章, 小塚一宏, 他:視線計測による“歩きスマホ”の危険性検証. 電子情報通信会技研報. 2016;115
(504):17-21.

4) 愛知工科大学:小塚研究室.
[http://www-in.aut.ac.jp/~kozuka/]

【回答者】

小塚一宏 愛知工科大学工学部情報メディア学科教授

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