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認知症に対するインスリン鼻内吸入薬の効果

No.4753 (2015年05月30日発行) P.67

笹岡利安 (富山大学大学院医学薬学教育部(薬学系) 病態制御薬理学研究室教授)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

認知症予防に有効とされるインスリン鼻内吸入薬の効果をご教示下さい。(千葉県 A)

【A】

脳でのインスリン作用の低下は,記憶に重要な海馬などでの神経機能の低下や神経変性を引き起こし,認知機能低下に関わります(文献1)(文献2)。糖尿病とアルツハイマー病との関連が明らかとなってきていることからも,脳のインスリン作用を高めることが認知機能の改善につながると期待されます(文献3)。しかし,全身のインスリン投与は高インスリン血症や低血糖を引き起こすことから,認知症の治療には適しません。そこで,脳で選択的にインスリン作用を高めて神経機能を適正化する方法として,インスリンの鼻腔内(経鼻)投与が注目されています(図1)(文献4)。
インスリンを経鼻投与すると,嗅覚領域の近傍に存在する中枢神経系に直接作用して,中枢神経機能を高める効果が期待できます。インスリンはアルツハイマー病の原因として重要なアミロイドβオリゴマーの神経細胞への結合を阻害することや,神経細胞でのインスリン受容体の細胞内移行や酸化ストレスの増加,さらに,シナプスの減少や可塑性の障害などの様々なアルツハイマー病病態を改善することが知られています(文献1,2)。
インスリンの経鼻投与が認知機能に及ぼす影響を調べた臨床試験では,比較的小規模な検討ではありますが,健常者と軽症のアルツハイマー病患者でのいずれにおいても,記憶機能テストの評価が高まり,画像検査での脳血流量が改善することが報告されています(文献2,4)。副作用に関しては,軽度の鼻腔内刺激症状や鼻炎が生じる可能性があるほかは,重篤な内容は報告されていません。
現状では臨床利用に至っていませんが,新たな認知症治療薬としての実用化に向けて,1年以上の長期投与効果を調べる大規模な臨床研究が米国を中心に進められており,成果が待たれます。

【文献】


1) 笹岡利安, 他:日臨. 2014;72(4):633-40.
2) Crane PK, et al:N Engl J Med. 2013;369(6): 540-8.
3) Soeda Y, et al:Mol Endocrinol. 2010;24(10): 1965-77.
4) De Felice FG, et al:Arzheimers Dement. 2014; 10(1 Suppl):S26-32.

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