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スポーツ時に視界の太陽光を避ける工夫

No.4750 (2015年05月09日発行) P.63

河野徳良 (日本体育大学アスレティックトレーニング 研究室准教授/侍ジャパンヘッドトレーナー)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

野球などで,空中に打ち上がった球を見上げたとき,視界に太陽が入ることがあります。このとき,あまり濃いサングラスをしていると,球を見失うようにも思います。太陽光を避ける対策として,プロ選手はどのような工夫をしているのかご教示下さい。 (東京都 I)

【A】

デイ・ゲームで行われる野球の場合,敵は相手チームのみならず,太陽とも関係があると言われています。特に打球が太陽光と重なり,野手がボールを見失い,捕球できずヒットとなることは「太陽安打」とまで呼ばれています。これは太陽光が目に入ることで明順応が起こり,順応時間に対し捕球動作が間に合わないために起こります。
イチロー選手はある試合で,体をライト方向に向け,打球を横目で見るようにしながら落下点へと動き,捕球と同時にグラウンドに倒れ込みました。名手であるイチロー選手にしては不思議な動きでしたが,その後のインタビューで「太陽が目に入ったら終わりだから,入らないように動くしかない。僕の右側への打球だったらチャンスはないけど,左側ならチャンスはある。正面を向いて捕球したら見失うから」と答えていました。
多くのプロ野球選手が太陽光に対する対処法として実際に行っているものには,以下のようなものがあります。
(1)野球専用サングラスの着用
太陽からのglare(眩しさ)を最小限に抑えながら速い打球も鮮明に見えます。さらに,広い守備範囲を確保するためレンズ幅の広いサングラスを使用しています。
(2)捕球の工夫
打球が太陽と重なった場合,太陽を利き手で隠して太陽光を遮りながら,捕球する直前に利き手を外し捕球します。そのほかにも帽子,またはグローブで太陽を隠すなどがあります。しかし,グローブで隠すと捕球動作に余裕がなくなるため,これを嫌う選手もいます。
(3)アイブラックの使用
アイブラックは,太陽光の反射した光で両眼のコントラスト感度が鈍ることを防止する目的でつくられ,野球やアメリカンフットボール選手を中心に使用されています。
眼の下に付ける黒い防眩・遮光グリースでスティック状(No GlareR stick:米国Mueller社)やステッカータイプ(No GlareR strips,No GlareR StealthR strips:米国Mueller社)があります。
研究では,太陽光下におけるアイブラックは明らかにglareを軽減し,コントラスト感度の改善に効果があることが報告されています(文献1)。
(4)ほかの野手との連携
横から見える一番近い選手と声によって連携を図ります。

プロ野球選手は,投手の投げた球の球種,スピード,コース,打者の力量やバットスイングなどから打球方向を事前に予測し,ボールがバットに当たる瞬間には,既に動き出しており,さらに前記のような太陽光の対策も行っていますが,太陽安打を完全に防ぐには至っていません。
守備に着いた際,太陽の位置を確認し,どのような打球が太陽光の影響を受けるか予測し,そして前記のようにサングラスやアイブラックを使用し,捕り方の工夫やほかの選手との連携などを行うことで,太陽光の影響を防いでいるのが現状です。

【文献】


1) DeBroff BM, et al:Arch Ophthalmol. 2003;121 (7):997-1001.

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