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ヤブカの駆除方法

No.4743 (2015年03月21日発行) P.66

白井良和 (害虫防除技術研究所代表/有限会社モストップ取締役)

登録日: 2015-03-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

デング熱の原因となるデングウイルスを媒介するヤブカを駆除する方法について。春~冬の各シーズンの対応とヤブカのトラップ(捕獲器)を。 (秋田県 H)

【A】

身近にいる蚊は,昼に刺すヤブカと,夜に刺すイエカである。ヤブカは東北以南ではヒトスジシマカ,東北,北海道,本州高地ではヤマトヤブカが多い。市街地で昼に刺す蚊は多くがヒトスジシマカ(区別困難なヤマダシマカも存在する)である。デングウイルス媒介蚊は,ネッタイシマカとヒトスジシマカであり,日本ではヒトスジシマカが媒介する。
蚊は,卵→幼虫→蛹→成虫の完全変態である。本州においてヒトスジシマカは,卵で冬を越し,4月頃,孵化して幼虫(ボウフラ)になる。4~5月頃,幼虫が育って蛹化し,5月頃から羽化して,その年初めての成虫が出現する。羽化約5日後よりメスが吸血を開始し,吸血約3日後,小容器などに産卵する。これを10月頃まで繰り返す。ヒトスジシマカによる吸血被害は,6~9月に多い。
[1]シーズン別駆除方法
次に駆除方法を述べる。
10~4月:春の孵化を防ぐため,卵が付着した鉢受け皿,廃タイヤなどは屋根下に置いたり,洗浄,廃棄する。
4~10月:特に幼虫を繁殖させないため,幼虫発生源となるプラスチック・金属・発泡スチロール容器,竹切り株,壺,廃タイヤ,洗車用バケツ,玩具,プランター,鉢受け皿,ブロックの穴,ビニールシート上の水溜まり,雨水枡など,水が溜まる可能性のある場所の対策が必要になる。
流れのある川,流れのある側溝,広い池や沼,噴水のある池,プール,貯水池,大きな防火用水槽には発生しないため,水抜きは不要である。また,新しい空き缶,ペットボトル,ガラス瓶に発生するのは稀である。ヒトスジシマカが産卵するのは,日が当たりにくい暗い場所の小さな水溜まりである。
(1)裏返しにできる容器は逆さにして,雨水が溜まらない向きにするか屋根下に置く。車止め用・遊具用タイヤは穴開けが効果的である。
(2)竹切り株,雨水枡など,水を除去できない場所に羽化を阻害する昆虫成長制御剤(insect growth regulator:IGR)のピリプロキシフェン粒剤を投入する。蚊幼虫向け第2類医薬品のピリプロキシフェン粒剤は,害虫駆除業者以外では入手が難しい。ユスリカ,チョウバエなど水系害虫駆除用のピリプロキシフェン発泡錠,ピリプロキシフェンとBti(Bacillus thuringiensis israelensis)含有錠,幼虫の脱皮を阻害するジフルベンズロン水和剤や発泡錠,幼虫を殺虫するジノテフラン発泡錠は,個人で入手可能である。また,銅イオンは若齢幼虫を致死させるため,銅板,銅線を幼虫発生源に投入する。いずれも1~2週間おきに再投入することが望ましい。
(3)雨水枡の蓋の下に,金属製の開閉式防虫装置を設置したり,網を挾むことにより,雨水の流入を可能にしつつ蚊の脱出・産卵を阻止する。ゴミ掃除以外,長期間有効である。
このように,水中でのみ生存する幼虫期の駆除が蚊駆除の根幹となる。
6~9月:成虫多発状態では,成虫駆除が必要になる。主として害虫駆除業者が行う。ヒト,動物,魚に安全性が高いピレスロイド様殺虫剤エトフェンプロックス水性乳剤を,動力噴霧機やAC電源使用(ultra low volume:ULV)噴霧機で植物周辺に噴霧する。また,ピレスロイド剤含有炭酸ガス製剤を噴霧する。
個人で行う成虫駆除は,ピレスロイド剤トランスフルトリン含有ヤブカ用エアゾールを植物周辺に噴霧する。ピレスロイド剤レスメトリンとフタルスリン含有ハエ・蚊用エアゾールでも殺虫できるが,常温揮散性に優れたトランスフルトリンのほうが,高価であるが駆除効果に優れる。植物の茂みには,近隣から蚊が集まり,噴霧数日後に蚊が増加するため,効果は一時的である。
[2]蚊の性質に基づく捕獲器・殺虫剤の効果
蚊は,熱,二酸化炭素,水分の3要素により動物を探索して吸血するため,炭酸ガスボンベ,光触媒,酵母発酵により二酸化炭素を発生させる捕獲器がある。蚊は遠くから二酸化炭素センサーで近づき,近くからは熱や水分のセンサー,視覚を駆使して皮膚を探索する。ヒトや動物でないと認識すれば降着(landing:皮膚にとまること)せず,また降着させることは困難なため,「誘引するが降着しない蚊」も吸い込むファン利用が有用で,捕獲効力は,吸い込み力に大きく依存する。
ヤブカは暗いほうへ行く性質があるため,正の走光性を持つガ・ユスリカ・ハエ用UV光利用捕獲器にはほとんど入らない。蚊は水分・糖分摂取状態や日齢により吸血意欲に差があり,「そのとき吸血意欲がある蚊」は100%ではない。それゆえ,捕獲されるのは吸血意欲がある蚊のみで,全部の捕獲は無理である。また,ヒトや動物と捕獲器が近くにあれば,ヒトや動物に誘引される。これに対し,殺虫剤使用では,吸血意欲の有無に関係なく,その場の蚊すべてを殺虫できるという違いがある。したがって,蚊捕獲器は,蚊数の低減に多少効果がある程度である。
ピレスロイド含有家庭用殺虫剤として,蚊取りマット,液体蚊取り,ワンプッシュ型蚊取りは,主に屋内で使用し,線香型蚊取りは屋外でも使用できる。腕時計型,ファン式蚊取りは身につけて使用する。ピレスロイド含有ユスリカ・チョウバエ用蒸散型プレートは,屋外に吊るして使用する。忌避剤(虫よけ剤)は,ディート(ジエチルトルアミド)含有で,高濃度の製品は効果が高い。

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