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片側腎動脈狭窄患者における PTRAと薬物療法の選択

No.4752 (2015年05月23日発行) P.53

阿部倫明 (東北大学病院総合地域医療教育支援部准教授)

登録日: 2015-05-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

わが国では腎血管性高血圧症の頻度は全高血圧患者の約1%と必ずしも高くありませんが,高齢化による動脈硬化性疾患の増加とともに今後より重要になってくると考えられます。
「高血圧治療ガイドライン2014」では経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)について,片側性粥状動脈硬化の場合に薬物療法にまさるエビデンスに乏しく,一般的には薬物治療単独を支持しています。また,レニン・アンジオテンシン(renin-angiotensin:RA)系阻害薬の使用が勧められていますが,患側腎の虚血の助長や,潜在性の両側病変の懸念もあります。
どのような場合にPTRAを選択するか,RA系阻害薬の使用はどうすべきか,東北大学・阿部倫明先生のご教示をお願いします。
【質問者】
向山政志:熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野教授

【A】

[1]片側腎動脈狭窄症でのPTRAの適応
片側腎動脈狭窄症におけるPTRAの適応をどのように考えるか,というご質問です。
腎血管異常,多くは腎動脈狭窄症(renal artery stenosis:RAS)や腎動脈閉塞が高血圧発症の原因になっている疾病を腎血管性高血圧症と呼びます。したがって,理論的にはその腎血管異常を治療することで高血圧や心不全が改善・治癒した場合に,腎血管性高血圧症と確定診断できます。
これまでASTRAL研究やSTAR研究などの大規模な無作為化比較臨床研究では,内科的治療(適切な降圧薬,スタチン,抗血小板薬)にPTRAを併用した治療群は,内科的単独治療群と比較し,降圧効果,腎予後,心血管疾患発症や心不全再発などに対し,有意な治療効果が認められませんでした。
また,最近報告されたCORAL研究では,PTRA併用治療群で降圧薬を2剤以上使用しても収縮期血圧155mmHg以上の難治性高血圧症に対し,protectionデバイスを使用し小血栓子による腎梗塞を予防したPTRAが施行されましたが,内科的治療単独に比べ,改善効果は認められませんでした。
しかしながら,以下のような理由でPTRAの適応についてはいまだ結論が出ておらず,検討すべき課題が残っていると考えられます。
米国心臓病学会財団/米国心臓協会(ACCF/A HA)による末梢動脈疾患患者に対する治療ガイドライン(2013年改訂版)(文献1、2)におけるRAS治療法(内科的治療とPTRAのみ)をまとめると,以下の通りです。
〔ClassⅠ推奨〕
(1)内科的治療は,ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬,ARB(angiotensinⅡreceptor blocker),Ca拮抗薬は片腎RASの関与する高血圧に,β遮断薬はRASの関与する高血圧に有効である。
(2)PTRAは反復性で原因不明のうっ血性心不全または突然発症の原因不明の肺水腫を伴う血行動態的に有意なRAS患者に適応がある。
(3)PTRAを施行する場合,腎動脈起始部の動脈硬化性病変に対しては,腎動脈ステント留置術が有効である。また線維筋性異形成病変に対しては,緊急回避的なステント留置を考慮したバルーン拡張術が必要ならば推奨される。
〔ClassⅡa推奨〕
(1)PTRAは加速型高血圧,難治性高血圧,悪性高血圧,原因不明で片腎の小さい高血圧,または治療抵抗性高血圧を有する血行動態的に有意なRAS患者に対して妥当な治療法である。
(2)PTRAは不安定狭心症を伴う血行動態的に有意なRAS患者に対して妥当な治療法である。
(3)PTRAは両側または機能している単腎のRASによる進行性の慢性腎臓病の腎機能保護に妥当な治療法である。
〔ClassⅡb推奨〕
(1)PTRAは血行動態的に有意な両側または機能している単腎の無症候性RASに有効であろうと考えられている。
(2)PTRAは腎機能障害を伴う片側RAS患者の腎機能保護に妥当な治療法であると考えられている。
(3)PTRAは血行動態的に有意な片側性の無症候性RASに対する有効性はよく確立されていない,あるいは現在のところ臨床的に立証されていない。
また,日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」でも,PTRA施行を考慮してもよいのは,(1)血行動態的に有意なRASを有し,a.利尿薬を含む3種類以上の降圧薬を使用しても目標の降圧を得られない治療抵抗性高血圧,b.増悪する高血圧,c.悪性高血圧,d.原因不明の片側萎縮腎を伴う高血圧,e.突然発症した原因不明の肺水腫,f.繰り返す心不全,g.不安定狭心症,h.線維筋性異形成を有する患者,(2)両側RAS患者,(3)機能している単腎のRASを伴う進行性慢性腎疾患患者,などの症例,とされています。
この血行動態的に有意なRASというポイントは特に重要です。見た目はRASが認められるが,何らかの腎疾患の合併や既に萎縮が進行したため無機能腎となっている場合(たとえば,既に腎機能廃絶まで進行してしまった症例),RASそのものが血行動態的あるいは機能的に(血圧や心機能に)影響を及ぼしていない場合(たとえば,非有意な狭窄例),PTRAによってただ単に腎動脈を拡張しても,有効な治療になるとは考えられないからです。すなわち,RASの診断には,単に形態的な評価だけではなく機能的な評価も必要ということです。機能的評価には,腎動脈ドプラ検査による腎動脈,腎内動脈の血流評価や腎動脈造影時の狭窄前後の圧較差測定などがあります。
また,(腎ドナーとして)片腎摘出しても普通に生活できることからわかるように,片腎の虚血性腎症を機能的に対側腎が十分に補っている場合(高血圧やうっ血のない状態=無症候性),この虚血性病変を改善しても生命予後や心不全には何も影響を与えない可能性が考えられます。したがって,上記の臨床研究があるにもかかわらず,片側の無症候性RAS病変に対する適応は,現時点ではまったく判断できないと思われます。
腎血管性高血圧症では,狭窄側腎に虚血性腎症が,対側腎に圧外傷やRA系の亢進による障害が生じることがわかっています。片側RASの適応症例では,適切なPTRAにより両腎とも救うことが可能です。しかし,片方の腎機能が低下してしまった後では,虚血性病変を解消しても中等度以上の腎機能障害が残り,早期発見・早期治療はありません。
私見ですが,RASに対するPTRAの有効性を評価するには,長期間(20年以上)の臨床研究や,より詳細な腎機能評価を加味した臨床研究が必要なのではないでしょうか。PTRAが血圧予後・腎予後を改善するRAS症例は確実にあることから(文献3) ,RASにはPTRAは不要であると決めつけず,総合的に慎重に治療適応を判断することが大切であると思います。
[2]RA系阻害薬の使用と注意点
片側RASの場合,RA系阻害薬の使用は勧められます。RASの病態生理ではRA系が賦活されています。そのため,RA系阻害薬は降圧効果に優れており,また腎機能の予後や心不全,狭心症を改善します。
ご指摘の通り,片側RASでもRA系阻害薬の使用は患側の腎虚血を助長する可能性があり,急速な腎機能障害の進行や過度の降圧には注意が必要です。私は,RAS症例に初めてRA系阻害薬を投与する場合,腎機能をみながら少量から開始することをいつも心がけています。また,腎血管性高血圧症には,Ca拮抗薬やβ遮断薬も有用です。

【文献】


1) Rooke TW, et al: J Am Coll Cardiol. 2013;61(14): 1555-70.
2) Anderson JL, et al:Circulation. 2013;127(13): 1425-43.
3) 阿部倫明, 他:臨泌. 2011;65(1):39-47.

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