循環器編① 日本プライマリ・ケア連合学会監修
本連載では,日本プライマリ・ケア連合学会/全日本病院協会が実施している「総合医育成プログラム」の中から,選りすぐりのクリニカルパールを紹介します。現場のニーズを熟知しているエキスパートが,プライマリ・ケア医にとって「まさにそこが知りたかった!」というポイントをわかりやすく解説します。
プライマリ・ケアにおける心電図読影の核心は,「ST-Tの読み」にある。「ST-Tの読み」は,「ST下降系」と「ST上昇系」にわけて考えるとわかりやすい。本稿ではまず,「ST下降系」の「ST-Tの読み」について,その核心を述べる。
正常心におけるST-Tは,QRS波終了直後からなだらかな上昇とともにT波を形成,T波ピーク後は急峻に基線に戻って左右非対称なT波をなし,水平なST部分は存在しない(図1-①,以下〇番号は図1中番号)。冠狭窄により心筋虚血が生じると,STの水平部分が出現,その分T波幅は小となり左右対称となる(②)。この所見はsharp angle of ST-T(SASTT)と呼ばれ,心筋虚血の可能性を示す。心筋虚血が顕在化すると水平(H)型ST下降(③),下行傾斜(DS)型ST下降(④)となる。さらに心筋虚血が増強するとT波は陰転し(⑤),この形になると,左室肥大の際の「ストレインパターン」と区別不能となる(⑫)。このとき,左室高電位を伴えば左室肥大の可能性があり,それを伴わないときは心筋虚血の特異性が高い。なお,心筋虚血の回復期や虚血周辺領域では左右対称な陰性T波(⑩)がみられる。左右対称のT波は,陽性(②)でも陰性(⑩)でも心筋虚血の所見である。また,幅の狭いとがった陽性T波(⑧)は高カリウム血症である。
心筋虚血が強度となり,冠動脈が亜完全閉塞あるいは一度閉塞したあと,かろうじて再灌流しているような状況では,陰性T波はさらに深くなり(⑥),QT延長を伴えば(⑦),急性冠症候群と考える。