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高血圧症の管理と4剤目の使用

No.5189 (2023年10月07日発行) P.48

柴田洋孝 (大分大学医学部 内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座教授)

登録日: 2023-10-04

最終更新日: 2023-10-03

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高血圧の管理に,血圧120/80mmHg未満を正常血圧として対応することを諸外国のガイドラインでは推奨しています。3剤の降圧薬を使用しても外来で130/80mmHg以上のものを治療抵抗性高血圧として,アルドステロン合成酵素阻害薬を4剤目として使用し,効果を上げた論文を拝見しました。この件に関しまして,高血圧症患者の生涯を見据えた管理やあり方をご教示下さい。(京都府 T)


【回答】

【ARBまたはACE阻害薬,Ca拮抗薬,サイアザイド利尿薬に加えて,MR拮抗薬,SGLT2阻害薬の併用は,治療抵抗性高血圧および腎臓,心血管アウトカムの改善が期待できる】

「高血圧治療ガイドライン2019」では成人における血圧値の分類が変更になりました。「高血圧」の定義は,診察室血圧で収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上ですが,降圧目標は多くの症例で130/80 mmHg未満とされ,従来,厳格な血圧コントロールが脳心血管疾患の予防に重要とされました。

特に合併症がない高血圧に対しては,A〔ARB(angiotensinⅡreceptor blocker,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)またはACE(angiotensin converting enzyme,アンジオテンシン変換酵素)阻害薬〕,C(Ca拮抗薬),D(サイアザイド利尿薬)のいずれかから開始し,降圧不十分な場合には2剤,3剤と併用が推奨され,この3剤を併用しても血圧が目標値まで下がらないものが「治療抵抗性高血圧」と定義されています。そして,治療抵抗性高血圧ではミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)拮抗薬,β遮断薬またはα遮断薬などの追加が推奨され,特にMR拮抗薬の有用性は以前より報告されています。

MRはアルドステロンやコルチゾールを天然のリガンドとするホルモン受容体であり,転写因子でもあり,様々な遺伝子の転写を活性化します。腎臓の皮質集合管では上皮性Naチャネルの発現を誘導しNa再吸収を起こします。また,腎臓以外の心臓や血管平滑筋,血管内皮,マクロファージ,Tリンパ球などにもMRは発現しており,組織の炎症や線維化から臓器障害を起こします。MR拮抗薬はこれらの作用を阻害することにより降圧作用や臓器保護作用を発揮します。現時点では,心不全や原発性アルドステロン症を除くと,降圧薬3剤で血圧コントロールが不良な治療抵抗性高血圧にはMR拮抗薬が投与されますが,実際の診療では投与される症例が少ないというのが現状です。

しかし,近年,血中アルドステロン濃度が高値を示す原発性アルドステロン症,睡眠時無呼吸症候群などや,血中アルドステロン濃度が高値を示さない肥満,糖尿病,慢性腎臓病などでもMRの過剰活性化による高血圧や臓器障害が多く,我々はこれらの病態を「MR関連高血圧および臓器障害」1)として提唱しました。すなわち,これらの病態ではARBまたはACE阻害薬とMR拮抗薬の併用を早期から行うことで,高血圧のコントロールや臓器障害の抑制に有効であると考えられます。

2型糖尿病に合併する慢性腎臓病では,腎機能低下から末期腎不全への進展と,その過程で発症する心血管疾患による死亡の両者を防ぐ必要があります。そのため,ARBまたはACE阻害薬とMR拮抗薬(フィネレノン2),エサキセレノン3)など)や糖尿病治療薬のSGLT2(sodium-glucose co-transporter 2,ナトリウム依存性グルコース共輸送体2)阻害薬(カナグリフロジン4),ダパグリフロジン5),エンパグリフロジン6)など)の併用の有効性を示す臨床試験結果が近年立て続けに示されました。2型糖尿病に合併する慢性腎臓病の治療では,ARBまたはACE阻害薬,SGLT2阻害薬,MR拮抗薬の3剤が治療の柱となる薬剤と考えられます。

ARBやACE阻害薬は単独で使用,またはMR拮抗薬と併用すると,血清K濃度が上昇するため治療継続が困難になることがあります。それに対する工夫としては,利尿薬やSGLT2阻害薬の併用が有効であることが最近示されました7)。心血管や腎臓の臓器保護効果と,有害事象である高カリウム血症の軽減,両者の達成のためにも,この3剤の併用は今後有望な選択肢となると思われます。

【文献】

1) Shibata H, et al:Am J Hypertens. 2012;25(5): 514-23.

2) Agarwal R, et al:Eur Heart J. 2022;43(6):474-84.

3) Uchida HA, et al:Adv Ther. 2022;39(11):5158-75.

4) Perkovic V, et al:N Engl J Med. 2019;380(24): 2295-306.

5) Heerspink HJL, et al:N Engl J Med. 2020;383 (15):1436-46.

6) The EMPA-KIDNEY Collaborative Group:N Engl J Med. 2023;388(2):117-27.

7) Neuen BL, et al:Circulation. 2022;145(19): 1460-70.

【回答者】

柴田洋孝 大分大学医学部 内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座教授

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