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社会的処方[私の治療]

No.5170 (2023年05月27日発行) P.42

川越正平 (あおぞら診療所院長,松戸市医師会会長)

登録日: 2023-05-30

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  • 今日,所得や就労上の問題,育児や介護の負担,アルコールや薬剤に関連する問題,慢性疾患や精神疾患・障害等の存在,差別・偏見,地域における孤立・孤独などの社会的課題が健康に色濃く影響を及ぼすことが認識されるようになった。社会的処方は,英国において先行して取り組みが進められている概念である。西岡らは,文献に基づきつつ,わが国における文脈を整理して,「医療機関等を起点として,健康問題を引き起こしたり治療の妨げとなる可能性のある社会的課題を抱える患者に対して,その社会的課題を解決しうる非医療的な社会資源につなげること,またケアの機会となる社会資源を患者とともにつくる活動」と定義している1)

    ▶歴史的経緯とわが国における制度上の位置づけ

    さかのぼれば,英国では1970年代から健康格差に関する研究が進められてきた。その後,健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の重要性が指摘されるようになり,2008年にはWHOがSDHに関する委員会の最終報告書を発表した。英国の場合には,診療所やチャリティー団体等に所属し地域資源に橋渡しする役割を担う「リンクワーカー」と呼ばれる人材が存在し,活躍している。2018年に英国は世界で初めて孤独問題担当大臣を任命し,「孤独対応戦略」を取りまとめた。

    わが国でも,2021年2月に孤独・孤立担当大臣が任命され,孤独・孤立対策担当室が設置された。これに先だって,「経済財政運営と改革の基本方針2020」(いわゆる骨太方針)に社会的処方が明記され,2021(令和3)年度介護報酬改定において,医師が訪問診療を提供する際に併算定可能な報酬である居宅療養管理指導を実施するにあたり,「利用者の社会生活面の課題にも目を向け,多様な社会資源につながるように留意し,必要に応じて指導・助言を行う」ものと示された。

    今のところ,通院が困難な要介護者に対する介護報酬にのみ設定されているが,地域包括診療料など患者を包括的に把握することが求められる診療報酬等にも将来拡大される可能性があり,かかりつけ医に期待される役割のひとつとして認識しておくべきだろう。

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