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【書評】『総合診療×心療内科 心身症の一歩進んだ診かた』心身症に関わったとき,まず読むべき一冊

No.5105 (2022年02月26日発行) P.67

志水太郎 (獨協医科大学総合診療医学・総合診療科教授)

登録日: 2022-02-23

最終更新日: 2022-02-22

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評者は,編著者の森川先生とは前職や関西若手医師フェデレーションで,大武先生とは市立堺病院の同僚として(救急外来で後期・初期のペアで急性肺塞栓を診た思い出など懐かしいです),酒井先生とは関西若手医師フェデレーションで,とそれぞれ接点がありますが,いずれの先生にも共通するのは教育に対して並々ならぬ熱意をお持ちである,ということです。

本書は総合診療と心療内科(心身症の病態を扱う横断的・専門的内科)という共有部分の多い,しかしスポットライトがあまり当たっていなかったと思われる領域を,両者のクロストークという形でわかりやすく解説しています。1章の「総合診療的アプローチと心身症」では,総合診療という広範な分野において心身症がどのように関わってくるかということを,総合診療医らの視点から明快に説いています。BPSモデル(生物心理社会モデル),患者中心の医療,動機づけ面接や多疾患並存,SDH(健康の社会的決定要因)など,いずれも総合診療医にとっては馴染みのあるテーマが並びますが,それを心身症という視点からこのように解説できるのか,と大変勉強になりました。症例を柱に解説されている点がわかりやすさを増しています。

評者は総合診療を専門とする人間であり,その意味では特に2章に注目しました。現場の人間にとって,心療内科的なフレームワーク,CBT(認知行動療法),家族療法などは深く勉強するきっかけを探していることが多いと思いますが,その入り口になるきっかけを与えてくれます。3章は在宅医療,緩和ケア,思春期,LGBTQsなどのセッティングにおける心身症との関わりについての章で,身近な目線から総合診療医が日常診療で実践しやすい心身症の診療メソッドが提示されています。症例を元に双方の考え方や視点,そして具体的なアクションプランを解説する4章はこれまでにないスタイルで,印象的です。その4章のトピックはMUS(医学的に説明が困難な症状),慢性疼痛,機能性高体温症,過敏性腸症候群,摂食障害などといった日常臨床で出会いうる,時に困難で未分化な状況を扱っていることも意欲的で読者の関心を惹くと思います。

酒井先生が序文で書かれていた,心身症診療の中核である「患者とともに考え,悩み,支える」というスタンスはすなわち総合診療にもむろん通じるものですが,このような姿勢が通底した本書は,心身症を診ていく医師たちにとって1つの精神的支柱になるような印象を持ちました。心身症に関わる,関わった先生方にぜひお読み頂きたい一冊です。

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