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【識者の眼】「不妊治療保険適用で問われる地域偏在」岡本悦司

No.5066 (2021年05月29日発行) P.61

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2021-05-12

最終更新日: 2021-05-12

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不妊治療への保険適用が来年度から予定されている。昨年の本欄(No.5043)で保険適用に合わせての成功報酬制の導入を提言させていただいたが、保険適用に際して考慮すべき重要なファクターとして地域偏在の問題もとりあげたい。

皆保険制をとるわが国では、全国均一の価格体系と保険給付ルールに加えて、可能な限り居住地にかかわらず平等な給付を受けられることが暗黙のポリシーとされる。保険給付の対象とはなったが、身近に医療機関がない、というのではむろん困る。不妊治療は頻繁な通院が必要であり、対象年齢女性の就労率の高さを考慮すれば、仕事と両立させながら受療できるためにも、容易に通院できる範囲内に提供医療施設があるかどうかは決定的に重要となる。

日本産科婦人科学会は、女性対象の不妊治療施設として621施設をリスト化(http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=72/10/072101229.pdf)している〔この他、厚生労働省が特定不妊治療費助成制度の対象施設として646施設をリストアップ(https://www.mhlw.go.jp/content/000697077.pdf)しているが、多くは重複〕。これを都道府県、二次医療圏単位に集計してみた。それによると、47都道府県全てで1以上の不妊治療施設はある(最多は東京都103施設、最少は佐賀県の2施設)。しかしながら、通院圏と考えられる二次医療圏別にみると、全国344圏のうち、1つ以上有する医療圏は174と約半数の医療圏は不妊治療施設が皆無であった。

社会保障・人口問題研究所は出生動向基本調査において「不妊への心配の有無」と不妊治療の受療状況を2002年より調査しているが、不妊を心配している夫婦の半数近くが全く医療機関を受診していないと回答している()。その理由までは不明だが、費用負担に加えて通院できる医療機関の有無も大きく影響しているだろう。

医療経済学では「保険誘発需要」と呼ばれる現象が知られている。自らが払った保険料を財源とする以上、これまで通院が困難だった地域の夫婦も不妊治療を希望するようになると予想され、不妊治療の地域偏在の是正が保険適用後の重要な課題となるであろう。

本記事に関連して不妊治療の保険適用をめぐるセミナーが6月19日に日本医療経営学会により予定されています(https://www.jmedj.co.jp/dr9navi/seminar_cal_202106/)。

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[不妊治療施設]

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