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在宅ホスピス・ケア,除痛・疼痛管理[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.61

中島一光 (いきいき在宅クリニック院長)

登録日: 2021-05-10

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  • これまで,がんの診断を受けた患者は,まず手術療法や化学療法あるいは放射線療法などの集学的治療で,できるだけがんを制御することに力を注ぎ,その後,治療効果に限界が見えてきたら治す医療に終止符を打ち,そこからは緩和ケアに切り替えて症状のコントロールに専念し,苦痛を和らげながら安らかな最期を迎えられるように支援する,というのが一般的な流れとなっている。

    これに対して,最近ではがんと診断された早期から緩和ケアを導入し,がんの治療と併行してQOLの向上も図るという考え方が普及してきた。早期からの緩和ケアによって生存期間も延長することが示されるようになり1),いまや苦痛を和らげるだけの緩和ケアではなく,QOLの改善を目的とした手術や化学療法,放射線療法なども行われるようになってきた。
    「座して死を待つだけ」という従前からの緩和ケアに対する悪しきイメージが払拭されつつある一方で,がんと闘う緩和ケアのイメージが強くなりすぎて,その先に訪れる死そのものが,医療の敗北として受け入れがたいもの,忌み嫌うべきものとして取り残されないか,注意が必要となる。

    このような闘う緩和ケアのイメージに比して,ホスピス・ケアという言葉には,死そのものを意識した響きがある。やがて必ず訪れる死そのものにきちんと向き合い,しっかりと受け止め,覚悟をもって残りの人生を生き抜くこと。やがて訪れる厳しい現実を受け入れられるよう,患者と家族を支えること,それがホスピス・ケアに携わる医療者に求められる大切な役割である。

    在宅ホスピスケアは,これを患者の自宅で展開する。患者の本心としては最期まで自分の家で過ごしたいと希望している。でも家族に迷惑をかけたくないし,症状が重くなったときにどうしたらよいかも心配だ。多くの患者はそう考えて,在宅でのホスピス・ケアを諦めてしまう。しかし,医師,看護師,薬剤師,ケアマネジャー,ヘルパーなどの多職種で構成する専門チームが対応することによって,患者は最期まで在宅でホスピス・ケアを受けることができる。

    ▶代表的症状

    「緩和なくして在宅なし」という言葉が示すように,在宅ホスピス・ケアで最優先すべきは,何よりも苦痛の緩和である。苦痛の苦は「息苦しさ」,苦痛の痛は「痛み」であり,この2つを徹底的に緩和することが重要である。そして「痛み」に関しては身体的な痛みだけではなく,トータルペイン(全人的な痛み)としてとらえる必要がある。

    トータルペインとは,近代ホスピスの祖であるシシリー・ソンダース(Cicely Saunders)が提唱した考え方であり,身体的苦痛(physical pain)のほかに,精神的苦痛(psychological pain),社会的苦痛(social pain),そしてスピリチュアルペイン(spiritual pain)を加えた全人的苦痛の概念である。

    このスピリチュアルペインの概念は,日本人にはなかなか理解しにくいと言われている。スピリットという魂でとらえる苦痛には,少なからず宗教的なバックグラウンドが見え隠れするが,生きる価値や人生の意味などにつまずき,これ以上生きていてもしようがない,もう終わりにしたい,早く楽にしてほしい,死んだほうがましだ,などの言葉の裏に現れるような苦痛ととらえることができる。ただし,このような訴えの裏には自制内の身体的苦痛が潜んでいることに気をつけなければならない。我慢できる自制内の痛みは生きる意欲を知らず知らずのうちに萎えさせることがある。スピリチュアルと考える前に,まず身体的苦痛が十分に緩和されていないのではないかと見直してみることが大切である。痛みをゼロに近づけることによって笑顔が戻り,死んだほうがましとは言わなくなるものである。

    ▶治療の対象

    在宅ホスピス・ケアの治療対象となる患者は,日本では健康保険上の制約もあり,「在宅での療養を行っている通院が困難な末期の悪性腫瘍の患者」となっている。

    ここで言う「末期」の定義は必ずしも明らかではない。最近では終末期という言葉は使われなくなり,人生の最終段階と表現されるようになったが,どのような状態を最終段階と言うのかも明確にされていない。

    米国では,がん患者に限らず余命6カ月と診断された患者がホスピス・ケアの対象とされているが,当院における過去5年間のデータを振り返ってみると,在宅ホスピス・ケア患者の83%が3カ月以内に,92%が6カ月以内に亡くなっており,ホスピス・ケアの対象を余命6カ月以内とする米国の基準は,大まかな基準であるが,現実的で妥当なものだと考えられる。

    また,患者によらずいのちが終わろうとする最終段階に生じる変化や必要なケアは,疾患によらずほぼ共通している。すなわち,次第に眠る時間が増え,食欲がなくなって食べる量が減り,最期は口渇の訴えも減って飲水もしなくなる。したがって不治かつ末期の心不全,腎不全,呼吸不全など,がん以外の疾患や老衰をホスピス・ケアの治療対象に含めることに違和感はなく,むしろがんだけに限らず,非がん患者の苦痛もホスピス・ケアによって緩和することによって,患者と家族の満足度が上がるばかりか,無駄な医療を減らし医療費の抑制にもつながるものと期待される。

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