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【識者の眼】「外国人患者には意識的に『やさしい日本語』を」南谷かおり

No.5057 (2021年03月27日発行) P.62

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2021-03-05

最終更新日: 2021-03-05

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技能実習生として来日した20代のフィリピン人女性が下血で近医を受診した。その際、日本に10年以上暮らし日本語が話せる30代のフィリピン人女性Aさんが通訳として同行した。患者は診察で痔が見つかり、日帰り手術を終えて無事帰宅した。Aさんが「取れたから薬ももう要らない」と言ったため患者は処方された薬も飲まずに過ごしていたが、再び出血した。そこで患者の近所に住む当院の医療通訳BさんがAさんに詳細を確認したが、どのような手術で何がどうとれたのか、何の薬だったかも理解していなかった。そこで今度はBさんが同行して主治医に話を聞くと、治療法は輪ゴムを使用した結紮術で、処方した薬は便を柔らかくする効果があり、止めてよいなど一言も言っていないということだった。

日本に長年暮らしている外国人労働者が、正式に日本語を学習できる機会は少ない。職場では同胞たちと母語で話し、日常生活は耳で覚えた日本語で事足りる。日本語を話す外国人なら理解できていると思いがちだが、実は知っている語彙数は限られ解ったふりをしていることも少なくない。医療通訳の研修を受けずに好意で通訳する人は、解らないとは格好悪くて言い辛いし、また聞き返したとて解る保証もない。「はい」と答えておけば話の腰を折らずにすみ、あとは想像力で話をつなげられる。使用言語が英語であれば医師も確認できるが、解らない言語ではどうしようもない。そのため外国人に対しては、日本語を解りやすく噛み砕いて説明する必要がある。間接的な言い回しや、丁寧に敬語を使った話し方は彼らにとっては難解である。日本語は主語を欠いた曖昧な表現が多いうえに、意識しなければ「やさしい日本語」は意外と話せない。「次回の来院時には予約表を持参して受付にお越しください」を難しいと認識して、「次に病院に来る時は、この紙(実物を見せる)を持って受付に行ってください」と言い換えることができますか?

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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