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【識者の眼】「コロナパンデミック騒動の今〜未使用PPE廃棄で考えた」西村秀一

西村秀一 (独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長)

登録日: 2025-05-14

最終更新日: 2025-05-13

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COVID-19に対して、専門家の中にはまだまだ油断するなという論調の声も少なくないが、世間一般にはもう緊張感はない。しかしそれは世間一般だけではない。

2025年4月中旬、筆者は物品搬入通路の壁際に、驚くほどの量の段ボール箱が積まれているのを見た。箱には「厚生労働省・アイソレーションガウン2020年9月」の張り紙があり、Made in Chinaの印字がある。全部未使用品だ。……そうか捨てられるのか。

そういえば1カ月前、マスクとディスポのフェイスシールドの箱が同じように置かれていた。N95マスクすらもあって驚いた覚えがある。「喉元過ぎれば〜」か。あれだけ頑張ったうちの病院ですらそんな感じである。流行当初あれだけ不足して渇望していたものが、今となっては保管できずに祭りの後のゴミ扱い。きっとうちだけじゃなく全国規模で起きているぞ……もったいない。いっそ次の機会のための国家備蓄に使ったら? それでも保管場所やコスト、そう簡単な話ではない。その上PPEにも有効期限なる食べ物の賞味期限のようなものが一応あったりする。箱には使用(推奨)期限2023年6月とある。ただし、まじめに性能劣化期限を調べた話は聞かない。

2003年のSARSの流行の際、外務省経由で要請があった台湾に感染対策の「指導」に行った。しかし、行って驚いたのは、台湾という国の対応スピードであった。短期間で隔離病棟をつくり隔離専用病院を指定し、そこで働く医療従事者を割り当てていた。N95マスクも何十万という数があって、彼らに十分いきわたらせていた。当時、平和な日本、当院にあったN95マスクは、ウイルスセンターにたまたまあった20枚だけ。指導するのが指導されて帰ってきたのだった。そんな我らが、このパンデミックで、時期遅れで大量に確保し、もて余し、捨て始めている。こんな非効率でよいのか。いつか何かが始まってもまた品不足に始まり、同じことの繰り返しにならないか。

2025年4月、国立健康危機管理研究機構という大組織が発足した。その使命はパンデミック対策計画の策定、国産ワクチンの開発と安定供給、リスクコミュニケーション、情報管理、感染症の臨床、疫学、基礎・応用研究など多岐にわたる。その中に本稿で話題にした「時期を逸しないかつ効率的なPPE供給」については、あるのだろうか。

今、かの米国では別の意味で緊張感が復活しつつある。トランプ政権が、新型コロナウイルスの起源を中国・武漢のウイルス研究所からとするホームページを公開した。黒の背景。中心に目いっぱい、白地の大きな“LAB LEAK”の文字。そこからせまる怒り顔のトランプ氏。今後の感染症研究への影響もふくめ、ずいぶんときな臭い話ではある。そういえば「祭りの後の寂しさは……」という歌があったっけ。そんなことを言うと歳がわかりそうだが、あの歌詞とメロディがやけに頭をよぎって、ついついフレーズを口ずさんでしまう今日この頃である。

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長)[COVID-19][感染症

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