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小関三英(4)[連載小説「群星光芒」157]

No.4743 (2015年03月21日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-09

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  • 三英さんは蘭書に書かれた「フレイヘイド(自由)」だの「デモクラチイ(民主主義)」だのといった、わたしにはチンプンカンプンの洋文字を読み取って、その中身を判読していたのです。なにやらオランダ渡りの珍奇な思考らしいのですが、そんな得体の知れない蘭語をもてあそぶ、あなたのことを目付の鳥居耀蔵が胡散臭い蘭学輩と睨んで、ひそかに動向を探っていたのも無理からぬ話です。

    天保3(1832)年の春、三英さんは三河田原藩の家老渡辺崋山様と知り合いになりました。崋山様のことはわたしも折々耳にしてました。貧しい江戸詰め藩士の家に育ち、絵がお上手だったので似絵(肖像画)を描いて家計を助けておりました。

    長じると儒学者の佐藤一斎先生の許で朱子学を学び、一斎先生からは、

    「学派学閥に束縛されず、多様な世界を公平かつ随意に取りさばく主体人となれ」

    と教えられたそうです。

    あなたが崋山様とお会いになったとき、初対面とは思えないほど意気投合して夜ふけまで語り合いました。崋山様はあなたにこんなことを申されたそうです。

    「今日の大名諸侯は200年の久しき期間、病み衰えた老人のように元気をなくしていますから、むやみに劇薬を使って病状を悪化させないように留意すべきです。……諸侯は大名本来の力量を持たないのに家名にこだわり家来たちはひどい処遇に苦しんでいます。上位の者は下位の者の生活を察知せず、下位の者も上位の者の立場を察しませんから互いに瘡蓋の下の痒さが通じ合わないのです。狭い1人用の布団に3人で寝るような窮屈な状態なのです。これが天下に流行する病気のような時勢なのです。……このような時流を理解しなくては風に向かって火を放ち、水流に逆らって船を進める場合のように、ただ難儀するばかりでなく弊害ははかりしれぬほどです」

    現今の風潮にザクリと斬り込む崋山様のお話は無学のわたしにも呑み込めました。

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