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土生玄碩(2)[連載小説「群星光芒」141]

No.4723 (2014年11月01日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-21

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  • 小伝馬町の牢屋敷は商人や職人を入れる「大牢」、無宿者や無頼漢、凶悪犯を閉じ込める「二間牢」、農民を入れる「百姓牢」、そして旗本、儒者、医師、僧侶などを入れる畳敷きの「揚屋」に分かれる。

    西の丸眼科奥医師の土生玄昌が入牢したのは東の揚屋だった。狭い座敷牢の中でぽつねんと座る玄昌の頭に浮かぶのは、なによりも身内の安否である。

    ――長男の義信は夭折したが、次男の義礼はまだ2歳の可愛い盛り、今頃どうしているだろう。

    ――入牢して以来、西の揚屋に監禁された義父(土生玄碩)とはまったく会えぬ。同じ牢屋敷に居ながら大火事の際、後姿を垣間見ただけで一言も言葉を交わせなかった。

    ――義父には叱られられ通しだったが、今となってはあの怒声さえ懐かしい。

    そんな思いにふけっていると不意に耳の奥底から義父の胴間声が甦った。

    「今日からおまえはわしの養子じゃ。判ったな」

    いきなり強い語気を浴びせられたのは今から12年前、玄昌が名を義胤と称した21歳のときだった。当時、玄昌は実父の野村正友の勧めで京都に遊学中だった。修業に油がのりかけたところを急に郷里の安芸国高田郡吉田村(現・広島県安芸高田市)に呼び戻され、伯父の玄碩から出しぬけに養子入りを申し付けられたのだ。

    実家の客間には大柄な玄碩が厳めしい顔付きで身を反らしており、脇に座る父は痩せた背中を曲げて首うなだれていた。

    「おまえの兄玄潭は先日、不祥事を起こして逐電いたした」と義父は大声でいった。

    「ついては玄潭を廃嫡と為し、おまえを土生家の跡継ぎにする。本日より名を改め、土生玄昌と名乗るのじゃ」

    有無をいわせぬ口調に父は眉を顰め、片方の口角を妙に引きつらせた。

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