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【書評】『ウイルスと外交』withコロナ時代に読むべき1冊!

No.5040 (2020年11月28日発行) P.64

福本正勝 (株式会社i・OH研究所代表、労働衛生コンサルタント、(公社)日本産業衛生学会、海外勤務健康管理研究会世話人)

登録日: 2020-11-25

最終更新日: 2020-11-24

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今年に入って、医療はコロナウイルス感染症を中心に回っている印象がある。コロナウイルスは、決して「強毒」のウイルスではないが、医療職は「未知」のウイルスに対する闘いを強いられ、まだ先の見えない環境に試行錯誤を繰り返している。その影響は、医学、経済、政治など多岐にわたっている。コロナウイルス感染症について、様々な情報が“錯綜”している。情報も更新されるが、それに追いついていけない、という印象がある。医学だけではどうにもならない世界があることを現実として突き付けられた。

本書は、著者が外務省などでの経験を活かし、医学のみでなく、グローバルな視点で書かれている。本書を読み進めると、感染症を通して世界とのつながりを再認識し、私の知識がいかに表面的なものであったかを痛感した。

第1章では、コロナウイルス感染症を始めとした感染症の歴史が語られる。再興感染症、新興感染症といわれる多くの感染症、特に世界の感染者の動向や日本での歴史の振り返りからマラリア、結核や狂犬病の怖さを改めて確認し、日本にいるとどうしても理解できない状況を認識する。

第2章では、NBC(核、生物、化学)兵器について解説されている。生物兵器としての細菌、ウイルスについて詳述されている。生物テロの可能性のある病原体は、厚生労働省が挙げている「ぺスト、天然痘、炭疽菌、ボツリヌス菌」の4つである。この4つの感染症患者が外来受診をしたときに診断・治療ができるか、恥ずかしながら全く自信はない。ボツリヌス菌以外は教科書でしか見たことのない細菌である。診断が遅れれば、医療職はじめ多くの一般市民に感染が拡大することは必至である。

第3章では、世界保健機関(WHO)について解説している。私は、高い理想のもと、世界の人々の健康・安全を第一に考える組織として、グローバルな活動を行っているイメージを持っていた。本章では、国連の組織であるWHO本部は政治的な影響を受けている組織であるとし、コロナウイルス感染症への対応についても検証している。他方、現場での「実行力」には評価がなされている。今後のWHOの在り方について、私たちも意識していくこと、世界の動向も重要である。

第4章は、本書の副題でもある「メディカル・インテリジェンス」について詳述されている。この言葉は、著者の造語である。感染症に限らず、災害すべてから健康被害を防ぎ、減らすために、リスクマネジメント(危機の発生予防)、クライシスマネジメント(発生した危機への対処)が必要であることは周知されている。「インテリジェンス」の知能、理解力、思考力という意味に加え、情報収集・分析を著者は追加し、提案している。予防医学、公衆衛生では、感染症サーベイランスに代表されるようにデータ収集および分析は、今後の対策には欠かせないものであるが、その考え方を医学すべてに拡大するものと思う。外務省在籍時代の経験などから語られる本章は大変興味深く、続く第5章に詳述される外務省医務官の「仕事」を理解する一助になろう。

第5章では、著者が経験した外務省医務官の使命としての詳細が書かれている。医療職の多くは知らない世界である。世界という舞台での医師、医療職の在り方、また意識、そして「使命」は感動すら覚える。医学生、若い医療職には、将来を決める材料にもなろう。

著者は、医療職に向けて感染症を振り返る機会とともに、医療の背景にある事象にもっと広く眼を向けることを教えてくれた。わかりやすく、読みやすいことも申し添える。また、一般の多くの方々に是非読んでいただきたい良書である。

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