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絶賛の嵐(中)[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(313)]

No.5023 (2020年08月01日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-07-29

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病理学の定番教科書、Robbins の『Basic Pathology』を原書で読んで理解できるようになることが講義の目的である。そのために、英和対訳付き教科書ガイドみたいな膨大な量のプリントを使って解説していく。

Zoom講義も例年のリアル講義とまったく同じ進め方にした。ひとつだけ違ったのは講義時間の長さ。Zoom講義はやたらと疲労度が高いので、持ち時間の60分×3コマを、およそ半分くらいで切り上げていた。

さぼりである。批判されたらかなわんなぁと思っていたのだが、なんと真逆。「大事なポイントにしぼったコンパクトな解説がよかった」とか、「残りの時間で教科書を読めて助かった」とか、褒められてしもた。

教える側と教わる側のギャップはかくも大きいのか。教える方は、できるだけたくさん教えたほうがいいと思いがちだ。でも、それって、学生には迷惑なだけやったんや…。

じつは、考えたことがなかったでもない。毎日、朝から夕方までびっしり講義や実習がつまっている。思い切って発想を転換し、午前中だけで切り上げるようにしてはどうかと教授会で提案したことがあるのだ。

勉強する子は、講義時間を短縮しても勝手に勉強する。逆に、しない子はいくら時間を増やしてもまともに勉強しない。それなら、思い切って時短するのが、みんなにとって大きなメリットがあるではないか。

その提案は即刻却下されたが、ひょっとしたら正しいのではないか。図らずも、そのことが裏付けられたような気がしている。

まず原理と論理をしっかり身につけ、細かいことはその「幹」に葉を貼り付けるように覚えよと、繰り返し繰り返し指導する。残念ながら、例年、どうにも理解してくれなかったのが、今年はちがった。「勉強のやり方が根本的に変わりました」という子がたくさんいた。こういう方向転換ができたのも時間に余裕があったおかげではないか。

もうひとつ、意外だったのは教科書の読破率。例年はせいぜい4割程度なのが、今年はなんとほぼ倍の8割。外出できなくて時間が余っていたせいもあるだろうけれど、まさかこんなに読んでくれるとは。

今年ほど教育に手応えを感じたことはない。どれもが、ケガの功名ならぬ、新型コロナの功名だ。少し大げさかもしれないが、医学教育における講義のやり方を根本的に見直すべきではないかと考えている。

なかののつぶやき
「新型コロナのせいで自宅幽閉された学生たち、いろいろと考えることがあったようです。不自由でストレスが強かったとは思いますが、忙しすぎる医学生たちが手持ちぶさたな時間を持ったという経験は、むしろ貴重だったのではないかという気がします。禍転じて福となす。新型コロナで成長してくれていたらとても嬉しいところです」

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