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老健施設長日記①突然、老健の施設長を担うことになって[エッセイ]

No.5278 (2025年06月21日発行) P.67

浅香正博 (カレス記念病院院長)

登録日: 2025-06-19

最終更新日: 2025-06-17

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2024年3月、8年間勤務した北海道医療大学の学長職を辞した。後期高齢者になっていたので、これから少しのんびりと自宅中心の生活を送ろうと思っていた。ところが、“けあ・ばんけい”という北海道札幌市の介護老人保健施設(以下、老健)の施設長が急に辞めたので後任を探しており、お願いできないかとの連絡があった。十分に考える余裕もなかったので、引き受けると言ったところ、4月1日より来てほしいという。大学退職後、1カ月くらいは旅行などしてゆっくりしようと考えていたのに、予定が変わってしまった。

北海道医療大学を退職した翌週には初出勤をした。老健についての知識はほとんどなく、前任者からの引き継ぎもない。まったくのぶっつけ本番であった。老健は、介護保険法に基づき運営される施設である。ほかの老人施設とは異なり、行政との関わりが非常に密接で、多岐にわたって行政の監督・指導を受けながら、公共性の高いサービスを提供しなければならない。

老健の最大の目的は、在宅復帰支援であり、病院での治療を終え、病状は安定しているものの、自宅での生活に不安がある要介護者を、リハビリテーションを中心に集中的なケアを施し、自宅での生活に戻すことにある。したがって、勤務時間は8時30分~17時までと厳格に定められていた。そのほか、施設長による回診が午前と午後に義務づけられていた。

入所者の定員は100名であり、91名が入所し、認知症専門ベッドは2階に30床用意されていた。80歳を超える高齢の入所者が大半を占めており、診断名が1〜2である例はきわめて稀で、多数の診断名を伴っていた方が多かった。

老健は介護保険によって運営されているため、通常の病院とは様々な点で異なっていた。入所者に対する診断、治療に関する医療行為は介護保険で認められていないため、すべて老健が支払うことになるのである。そもそも老健には、医療行為用の設備が用意されていない。X線設備がなく、心電計も配備されていない。病状が悪化した場合は、急性期病院を紹介し、診療を受けなければいけない。その際、診断、治療に関する費用は入所者ではなく、老健が負担することになっている。

まさしく老健は、病院とはまったく異なった施設なのである。このような知識がほとんどないまま、私は老健の施設長の仕事を担うことになった。

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