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世界一のCT保有国での課題[先生、ご存知ですか(87)]

No.5274 (2025年05月24日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2025-05-24

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CT保有台数世界一

2023年における世界主要国のCT保有台数国際比較統計によると、日本は第1位で、その数は1万4595台です。2位は米国で1万4150台となっています。僅差のように見えますが、人口100万人当たりの台数では日本が世界で突出して1位となっており、OECD加盟国平均の4倍以上です。この傾向は既に十数年以上前からみられており、CTを保有している診療所も多く、国内におけるCT保有施設の4割以上が診療所でした。

CTの有用性と考慮すべき点

外傷患者に対する全身CT撮影の有用性について報告されて以来、救急医療現場ではCT撮影が広く行われています。『外傷初期診療ガイドライン』においてもCT撮影やその評価法について記載されています。CTが広く普及することにより、診療の早い段階で撮影が行われて効果的な治療方針が決定されると思います。

また、わが国におけるがん死亡率の1位は肺癌であり、その早期発見と早期治療が課題となっています。CT検診による肺癌発見率は単純X線写真の約10倍と言われており、CTでの肺癌検診による死亡率低減効果も報告されています。一方で、被ばくや過剰診療の問題も指摘されています。現在では、海外における臨床試験結果をもとに、55~74歳で重喫煙者などに対しては、低線量CTによる肺癌検診の有効性が示されています。

さて、小児では転倒による頭部打撲がしばしばみられます。頭部打撲患者に対して頭部CT撮影は一般的に行われますが、乳幼児ではCT検査による放射線被ばくで発がんの危険があることも指摘されています。したがって、乳幼児に対しては、不要な頭部CT撮影は極力控えるべきと考えられています。関連学会では小児頭部外傷時のCT撮影基準の提言・指針を作成し、受傷機転、患者の意識レベル、身体所見を総合して頭部CTの適応を検討すべきことを示しています。

CT実施率と小児外傷重症度の推移

わが国における重症外傷を集積したデータベース(JTDB)を用いて、10年前と近年において、自動車乗車中に事故で外傷を負った子ども(15歳未満)の損傷重症度、予測生存率とCT撮影頻度を比較した検討があります。

その結果によると、この10年間で、胸腹部や四肢における外傷の重症度は有意に低下していましたが、これらの部位に対するCT撮影率は有意に増加していました。近年における対象患者の予測生存率(TRISS Ps)の中央値は99%、解剖学的損傷重症度(ISS)の中央値は9.0と比較的低いことがわかりました。一方でCT撮影率は86.1%でした。そして、部位別では頸部、胸部、腹部、骨盤、脊椎で10年前に比べて実施率が有意に増加していました。

近年は自動車の安全対策が進歩し、交通事故死者数や重症損傷者数が減少しています。また、外傷の初期診療において迅速簡易超音波検査法なども普及しています。したがって、小児の外傷患者においても、被ばくの影響を最小限にするため、不要なCT撮影を減らすことが重要ではないでしょうか。CT保有台数が世界一であり、医療水準が高いわが国だからこそ、実現可能な取り組みと考えます。

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