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慢性血栓塞栓性肺高血圧症[私の治療]

No.4979 (2019年09月28日発行) P.49

下川原裕人 (国立病院機構岡山医療センター循環器内科)

松原広己 (国立病院機構岡山医療センター統括診療部長/循環器内科部長)

登録日: 2019-09-30

最終更新日: 2019-09-24

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  • 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は,器質化血栓による肺動脈の狭窄や閉塞が原因で,肺血管抵抗が上昇し,肺高血圧症を呈する疾患である。同じく,肺高血圧症を呈する肺動脈性肺高血圧症と異なり,CTEPHでは外科的手術やカテーテル治療といった物理的治療により根治が可能なため,適切な診断と治療方針の組み立てが重要である。

    ▶診断のポイント

    【症状・臨床所見】

    主要な症状および臨床所見として,①労作時の息切れ,②急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難や胸痛,失神など)の既往,③下肢の深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)の既往,④肺野における血管性雑音の聴取,⑤胸部聴診で肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱ音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる。

    【検査所見】

    前述の自覚症状を有する患者のうち,胸部X線検査で左第2弓の突出,心電図検査で右軸偏位,右側胸部誘導のR波増高・T波の陰転化等が認められれば,肺高血圧症の存在が強く疑われる。このような症例では,積極的に心エコー図検査を施行し,右心の拡大,短軸像での左室の圧排像,三尖弁逆流圧格差の上昇等の有無を確認する。心エコー図検査で肺高血圧症が疑われれば,肺換気血流シンチを施行し,換気血流ミスマッチの有無を確認する。同検査にて異常がなければ,90%以上の確率でCTEPHは除外可能である。CTEPHの確定診断のためには,十分な期間の抗凝固療法を行っても改善がみられないことの証明が必要であり,抗凝固療法後の右心カテーテル検査で平均肺動脈圧が25mmHg以上であること,さらに造影検査で肺動脈の狭窄や閉塞を証明し,CTEPHの診断確定となる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    抗凝固療法に関しては,CTEPHが疑われると同時に速やかに開始し,生涯継続が必要である。ワルファリンを使用し,プロトロンビン時間国際標準比(prothrombin time-international normalized ratio:PT-INR)2~3を目標としてコントロールする。CTEPHにおける肺血管病変の治療の目的は,第一に肺高血圧症を解消して右心不全の発症を防ぎ,生命予後を改善すること,第二に換気血流不均衡を是正して酸素化を改善し,息切れなどの自覚症状を改善することである。

    現在わが国では,外科的血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA),バルーンカテーテルを用いた経皮的肺動脈バルーン拡張術(balloon pulmonary angioplasty:BPA),内科的治療の3つの治療法が選択可能である。しかし,根治性が証明されている治療はPEAのみであるため,まずPEAの適応を検討し,適応がない場合またはPEA後に肺高血圧症が遺残する場合に,内科的治療やBPAの適応を検討することが妥当とされている。

    PEA適応の有無は,CTEPH診療に関して経験豊富な施設において,肺動脈病変の局在と,血行動態や併存疾患の有無,年齢等の要素を総合的に判断し決定される。また,PEA手術適応外の症例に対しては,BPAの有用性が報告されている。その安全性は以前より格段に向上しているが死亡例の報告もあり,BPAにおいても専門施設での施行が望ましい。

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