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緒方洪庵(14)[連載小説「群星光芒」222]

No.4810 (2016年07月02日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-23

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  • 妻の八重が6人の子どもと従者らを連れて大坂を発ったのは文久3(1863)年3月9日だった。2男の平三と3男の四郎は長崎で蘭学の修業中だったので後で呼び寄せることにした。

    一家は3月24日に江戸に到着、その日のうちに『医学所』の頭取屋敷に旅荷をおろした。それまでひっそりとしていた頭取屋敷はたちまち賑わいの場と変じた。

    久しぶりに妻や子どもらと、「おはよーさん」、「御馳走さん」、「おーきに」と声を掛けあった。親子水入らずで過ごす倖せに緒方洪庵の気持ちはすっかりなごみ、気分も快調で持病もおさまったかにみえた。

    一家を呼び寄せて3カ月近く経った6月10日の朝、江戸の上空は低く雲がたれこめていた。

    洪庵は早暁より歯の痛みを覚えたが、歯痛は10年以上前からあり、いつものことなので、さして気にとめなかった。

    「痛みがおさまってから医学所へゆくことにしよう」

    八重にはそう伝えて自宅の書斎で洋書を広げて読んでいた。

    昼食は歯によかろうと笊蕎麦を啜った。それから少し昼寝をした。

    午の刻(午後1時頃)目覚めて居間に移り、静かに黙想していると、先日、奥医師の竹内玄同からきかされた頭取人事の裏話が思い泛かんだ。

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