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多紀元堅(9)[連載小説「群星光芒」201]

No.4789 (2016年02月06日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 「蘭方禁止令」が発令されて5カ月あまり経った。

    その日、伊東玄朴が佐賀藩邸に往くと留守居役が望外の吉報をもたらした。

    「長崎に滞在中の藩医楢林宗建殿が牛痘接種に成功したと報せてきたのじゃ」

    留守居役が差し出した藩の文書にはその次第が次のように記されていた。

    「嘉永2(1849)年6月初旬(新暦7月下旬)、佐賀藩よりモーニッケ医官に依頼した牛痘漿と牛痘痂がバタビアから出島の蘭館に到着した。7月17日、宗建殿は11歳の息子建三郎と和蘭通詞の児を連れて出島の蘭館へいった。モーニッケは牛の痘痂(瘡蓋)をすり潰して種痘を試みた。数日後、建三郎の腕に発痘したのを見て宗建殿らは狂喜乱舞の有様だった」

    知らせを読んだ玄朴は思わず叫んだ。

    「さすがは粘りの宗建殿、凄い佐賀ン者じゃけん」

    文書の最後にあったくだりにも目を吸い寄せられた。

    「8月6日、御国入りの藩主直正侯は宗建殿を佐賀に呼び寄せ、藩医の児3名に牛痘接種を命じた。宗建殿はモーニッケ医官の伝授のごとく接種をおこない3名すべてに発痘を得た。8月22日、宗建殿は直正侯御夫妻と藩医らの前で侯の嗣子淳一郎様(4歳)に牛痘痂を接種、数日後に見事発痘を得た。直正侯の御歓びはひとかたならず、宗建殿に『わが家臣と領民の子らに種痘をひろめよ』と仰せられた」

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