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坪井信道(5)[連載小説「群星光芒」183]

No.4770 (2015年09月26日発行) P.72

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-13

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  • 「安芸国(広島)にて蘭方を開業する中井厚沢殿が蘭語の達人でござる」

    と中津藩医の辛島成庵はいった。

    「厚沢殿は長崎に遊学して出島のオランダ人医師フェイルケの許で蘭学の研鑽をつまれたのじゃ。おぬしはまず中井塾にて蘭語の手ほどきを受け、そののち宇田川塾に入門するがよかろう」

    そういって中井塾と宇田川塾への入門依頼状を書いてくれた。信道は成庵の親切に心底より感謝した。

    ――中井塾にゆく前に兄上に会い、江戸で蘭方修業をする許しを得なければ。

    笈を背負い豊後国をあとにした信道は周防の赤間関(下関)までやってきた。

    往路は先を急いでいて気づかなかったが、そこは開けた港町だった。町の薬種屋に立ち寄り、蘭学修業に役立つだろうとオランダ渡りの洋薬をいくつか買い求めた。

    文化12(1815)年の暮、信道は大和国初瀬(奈良県桜井市)の長谷寺にたどりついた。

    長谷寺の僧坊で兄の所在をきくと、

    「浄界さんは研修学尞の枇杷寮におられる」と教えられた。

    4年ぶりに再会した兄は、思いがけぬことに房舎の一室に病臥していた。

    信道の姿を認めると、浄界はげっそりと痩せた身をおこして目を潤ませた。

    「このところ微熱や盗汗がつづき、胸痛や全身倦怠に悩まされてな」

    その声は嗄れてかつての精力溢れる兄とは違っていた。粗食と厳しい修業がつづき、すっかり体調を崩したのだ。

    「胸病(労咳・肺結核)かもしれない」

    そう診立てた信道は病床につききりで治療に当たることにした。

    まず精をつけてもらわねばと卵料理や川魚を焼いて差し出したが、

    「そんなものは破戒僧しか喰わぬ」

    と叱られた。鶏肉や猪肉なども食べてもらいたかったが、精進料理のほかは見向きもしなかった。

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