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希望と絶望(その3)─悩み編[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(260)]

No.4968 (2019年07月13日発行) P.63

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2019-07-10

最終更新日: 2019-07-09

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「めばえ適塾」で教えた小中学生たちのキラキラした目が忘れられない。好奇心旺盛にして発言も活発、やっていて楽しかったし、疲れるどころか元気をもらえた。

ひるがえって大学の講義、いくら煽ってもどんよりしている。たいしてエネルギーを使うわけでもないのに、終わったらいつもグッタリ。えらい違いである。

講義、下手な方ではないと思っている。しかし、出席率は低いし、出席している学生とて、めばえ適塾の子らに比べたらキラキラ感はほぼゼロ。何があかんのか…。

やはり受験勉強が問題なのかと思う。塾や予備校では問題演習がメインになる。与えられた問題を解くことの繰り返し。思考しているように見えるが、実際のところ、パターン記憶とその応用にすぎない。

そんなだから、どうも人の話を聞いて学びとるというトレーニングができていないのではないか、という気がしてならない。

講義で演習問題を出してほしいという学生もいる。どこまで受験システムに拘泥しているのか。それよりも、自分で問題を考えてみたらどうなのだ。

大学にはいったら、自分で学ぶ姿勢を身につけろよ。と言ったところで、かなりの学生は易きに流れがちである。それに「其の228 医学に興味がありますか」でも書いたように、医学という学問に興味がなさそうな学生も稀ならず見受けられる。

ただ、教える方にも問題があると言わざるをえない。先輩からまわってきた過去問を勉強したら合格できる科目があると耳にする。追試験は1回だけというルールなのに、必ずしも守られていない。それでは、学生を甘やかせすぎではないか。かといって、厳しくしたところで意味がないのではないかと思い始めている。

病理学総論の試験、11名いた留年組のうち、なんと10名が不合格だった。非留年組は99名中54名なので、カイ二乗検定をするとP<0.025で有意に違う。ペナルティーが与えられても何ら改善していないのだ。

さて、定年までの教育機会はあと2学年。一生懸命教えるのはアホらしいような気がする。かといって手を抜くのでは、やる気のない学生と同じ穴の狢である。講義をどうするか、試験の難易度や単位認定を現状維持でいくべきかどうか。いやはや、老教授の悩みは尽きないのであります。

なかののつぶやき
「好奇心とそれにもとづいた探索というのが人生でいちばんおもろいことやと思うんですけど、そうでもないですかね。興味がないことを押し付けられる受験勉強。それを何年も続けているうちに、好奇心というものがすり減ってしまうんでしょうか。もしそうやったら、ほんまになんとかせんとあかんのですけれど」

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