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高野長英(12)[連載小説「群星光芒」176]

No.4763 (2015年08月08日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-14

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  • 嘉永3(1850)年11月朔日の昼すぎ――。

    甥の宮城信四郎が打ち萎れた表情で四谷忍原横町の『宇宙堂』に現れた。

    「伯父貴、大変です。長英さんが無残なことに……」 

    信四郎はあごをふるわせながら弥太郎に告げた。

    「ゆうべ捕吏に襲われ、血まみれになって果てました」

    一瞬、弥太郎の頭の中が真っ白になった。愕きと動悸で言葉を失った。

    「なにがおこったのだ?」

    ようやく声が出た。

    「長英さんは脇差を振るって奮闘したのですが、大勢の捕り方に半殺しの目に遭いました。そして奉行所へ運ばれる途中、息が絶えて……」

    そこまでいって信四郎は首うなだれた。

    「ご家族はどうなった?」

    「奥様と息子さんたちも奉行所へ引き立てられました」

    弥太郎が家族に会いにゆくことはできなかった。それをすれば長英を匿ったことまで露見しかねない。松下寿酔が預かっている長女モトの身も危なくなる。

    「なぜ青山の隠れ家が見つかったのだ?」

    弥太郎が訊くと、信四郎は気を取り直して話しだした。

    信四郎は御小人頭の配下だけあって、その辺の事情をいち早くつかんでいたのだ。

    「数日前、たまたま長英さんが外出したとき、同じ牢屋にいた元一という無宿者に出くわしました。元一はひと目で牢名主だった長英さんと見抜いたようです。立ち話のあと、路銀が乏しいという元一を隠れ家まで連れていって金を与えました。お尋ね者を密告すれば賞金がたっぷりもらえます。元一はすぐさま奉行所へ駆けつけ、長英さんの居場所を教えました。そしてきのうの夕刻、万全の準備をととのえた30人あまりの捕り方が青山百人町の隠れ家を囲んだのです」

    そこで信四郎はふたたび声をつまらせたが、間をおいて続けた。

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