株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

携帯型心電計を活用して心房細動の早期治療につなげたい[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(12)]

No.4951 (2019年03月16日発行) P.14

登録日: 2019-03-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

地域で先進的な在宅医療に取り組む臨床医が信頼を寄せる医療機器とその活用法を紹介してきた本連載。最終回は、約10年前から携帯型心電計を導入し、脳梗塞の重大なリスクファクターである心房細動の早期診断・治療に取り組むクリニックの実例を紹介する。訪問診療のメリットを生かした、病院では実現できない在宅ならではの医療提供のあり方について考えたい。
【毎月第3週号に掲載】

  

東京・文京区にある文京根津クリニックは、在宅医療に特化したクリニックとして2005年に開業。院長の任博さん(写真)は開業以来、「これからの在宅医療は以前からある『往診』であってはならない」との考えから、ポータブルタイプをはじめ各種医療機器を駆使し、質の高い訪問診療の実践を心がけてきた。中でも往診車に常備し、「訪問診療には必須」と有用性を強調するのが12誘導解析機能付心電計だ。

在宅で「何が起きているか」を鑑別

在宅医療の患者は多くが高齢者のため、狭心症や心筋梗塞、不整脈など虚血性心疾患の発生リスクが高く、同院では自覚症状がない場合でも初診時に原則として心電図を計測するようにしている。
任さんは在宅医療における心電計の有用性についてこう語る。

「基本はもちろん聴診になりますが、胸の痛みや動悸などの症状を訴えている患者さんは狭心症や心筋梗塞の恐れがあり、現場で心電計を使いリスクの度合いをまず見極めることが重要です。STの上下動やT波の変化などを見ながら、例えば心筋梗塞であればST上昇型か非ST上昇型か、時にはエコーを用いて診断をつけていきます。日内変動も重要になるので24時間ホルター心電計での心電図計測も欠かせません。血液検査によるBNPの数値などを踏まえ、心臓に何が起きているかを鑑別するところまでは在宅医療の守備範囲だと考えています」

心電計で“隠れ心房細動”を掬い上げる

任さんが在宅現場で最近増えていると実感しているのが、心房細動の患者だ。心房細動は、①発作性(発症後7日以内に洞調律に戻る)、②持続性(7日以上心房細動が持続する)、③慢性─に大別される。「慢性」には、1年以上持続する「長期持続性」と電気的・薬理学的に除細動不能な「永続性」がある。

京都市伏見区の医療機関で心房細動の実態を調査した“伏見研究”によると、各分類の患者数(2011~12年)は発作性が46%、持続性が7.3%、慢性が46.7%という結果だった。日本国内の心房細動患者は現在約90万人とされているが、発作性の心房細動患者はほとんど含まれておらず、潜在的な患者は170万人に達するとの見方もできる。

「心房細動自体は不整脈の1つでそこまで怖い病気ではありませんが、進行性のため放っておくと心房内に血栓が形成されやすくなります。血栓が脳血管に詰まる心原性脳塞栓は重症化するケースが多いため、心電計を活用して自覚症状のない“隠れ心房細動”をいかに掬い上げるかが重要なのです」(任さん)

心房細動を巡っては、従来の血栓予防薬である抗凝固薬ワルファリンに比べ、直接経口抗凝固薬(DOAC)の一部は高齢者であっても出血性イベントリスクが低いと報告されており、注目を集めている。抗凝固療法以外ではカテーテルアブレーションの普及が進み、早期診断による予防や治療の重要性が増している。

文京根津クリニックで使用しているのは、フクダ電子(https://www.fukuda.co.jp/medical/medical_auth.html?redirectto=products%2f)の12誘導解析機能付心電計「カーディオスター FCP-7301」。

FCP-7301で計測し、現場でプリントした70代女性患者の心電図を図に示した。このケースでは、P波がなく基線が揺れているようなf波が確認でき、RR間隔は不定で頻脈傾向があることから、慢性心房細動と診断。血栓の形成を防ぐためにDOACの「イグザレルト」(一般名:リバーロキサバン)を処方した。

“4つの健康”を守ることが在宅医の使命

同院では心電計以外にも、ポータブルエコーによる胸腹部超音波検査や点滴、胃ろう管理、在宅酸素療法、中心静脈栄養法、在宅人工呼吸などの提供が在宅で可能だ。常勤の臨床検査技師も配置し、精度の高い検査に基づく医療を提供している。

任さんは在宅医療について「病院と同じような医療行為が自宅でできることも重要ですが、社会的な存在としての『人』を支える医療という視点を強く持って行うべきだと考えています」と語る。

「人間には体の健康、心の健康、家庭的な健康、社会的な健康という4種類の健康があり、そのバランスが大切なのです。たとえ若くて体が健康であっても、家庭が荒んでいたり、社会的に孤立していたりすればそれは健康とは言い難い。訪問診療では日々どのような生活をしているのか、患者さんのありのままを目の当たりにすることができます。これは外来や入院では得られない在宅医療のメリットです」

こうした観点から任さんは、患者宅に訪問診療する際、冷蔵庫を開けたり、時にはゴミ箱を覗いたりして、何を食べているかチェックするようにしている。同じようなものばかりを食べていることが分かれば、管理栄養士が食事をサポートする体制も整えている。

「人が死ぬ時には、痛い、苦しい、寂しいという3つの辛いことがあると思います。痛みや苦しみは医療の力で緩和できる部分もありますが、寂しさの前では無力です。これを治せるのは家庭的な健康や社会的な健康しかない。独居でも地域との交流があったり、気の置けない友達がいたりすれば寂しさは紛れます。治療だけでなく、4つの健康を60点のバランスで揃えていく大切さを患者さんに理解してもらうことも、在宅医に課せられた使命だと考えています」

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top