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自動車のアクセル・ブレーキ操作は片足・両足のいずれが安全か?

No.4945 (2019年02月02日発行) P.61

篠原一光 (大阪大学大学院人間科学研究科応用認知心理学研究分野教授)

登録日: 2019-01-31

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私は3,4年前からオートマチック(automatic transmission:AT)車の運転方法を勉強し,ある教習本で左足でブレーキを踏むことを習得しました。AT車が多い米国でも左足でブレーキを踏む人が多いと聞きます。確かに効率がよく,疲労も少ないように感じます。ところが,わが国で左足ブレーキはまったく普及しておらず,先日,教習所で教習を受けた際も,「なぜ左足でブレーキを踏むのか」との質問を受けました。
この件に関して結論は出ているのでしょうか。根拠がある安全なブレーキ操作法が判明していれば,ご教示下さい。

(大阪府 C)


【回答】

【両足操作の利点はあるが,実際に使う際は注意が必要】

片足での操作よりも,右足でアクセル,左足でブレーキという両足を使う操作がよいという主張は以前からあり,インターネット上でもその主張を見かけることがあります。現状では米国でも片足での操作が主流であるようで,片足での操作(one-foot style/unipedal)と両足での操作(two-foot style/bipedal)のどちらがよいか,議論が続いています。両足操作のほうが優れていることを実験的に示した研究1)もありますが,この問題について科学的に検討した研究が十分に行われているとは言えません。

長年にわたってペダル踏み間違いの研究を行ってきた研究者が,この問題について論文2)を発表しています。この論文では両足での操作に対する批判とそれに対する反論を述べ,結論として両足での操作を勧めています。

この論文によれば,左足と右足でペダル踏み込みの動作と反応の速さにはわずかに違いがありますが,反応の速さにはそもそも大きなばらつきがあり,どちらが速いということは問題になりません。また,左足のほうが右足に比べて不器用に感じられることは練習により克服できます。ペダル踏み間違いは,足の動作を完璧にコントロールできず行動にばらつきが生じることが直接的な原因と考えられます。よって,右足はアクセル,左足はブレーキというように操作対象を固定し,踏み換えのような足の動作を不要にすることで踏み間違いの可能性を下げることができるということです。また,両足での操作のほうが各ペダルを細かく操作できるので,よりスムーズな運転ができるとも述べられています。

両足でのペダル操作にはメリットが多そうですが,実際にこの操作法を使う場合に注意すべき点もあると思われます。

1つは,長年片足での操作に慣れている人が両足での操作に切り替える場合,それなりに練習が必要になるということです。先に紹介した論文によれば,この切り替えにどのくらいの訓練が必要なのかについての知見はないとのことです。長い運転経験を持つ人は,ペダル操作はほとんど無意識に行えるようになっているはずです。長年行ってきた片足での操作から両足での操作へと,既に習慣化した行動を変えることは一般的に難しいものです。また,うまく切り替えることができたつもりでも,特に緊急時には長年の習慣が出現しがちです。

さらに,現在の市販車のペダルは片足での操作を前提として設計されています。そのようなペダル配置の車で,設計者の想定に反する両足での操作を行うことがどのような問題を引き起こすのかは不明です。このように両足での操作にはよくわからない点も残されており,実際に実行される場合には注意が必要だと思います。

【文献】

1) Wang D-YD, et al:Ergonomics. 2017;60(4): 553–62.

2) Schmidt RA:Journal of Motor Learning and Development. 2015;3(1):1–10.

【参考】

▶ Left Foot Braking Method.
[http://www.leftfootbraking.org]

【回答者】

篠原一光 大阪大学大学院人間科学研究科応用認知心理学研究分野教授

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