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【書評】グラム染色道場─肺炎診療に生かす喀痰グラム染色の見方・考え方

No.4944 (2019年01月26日発行) P.68

忽那賢志 (国立国際医療研究センター国際感染症センター国際感染症対策室医長)

登録日: 2019-01-22

最終更新日: 2019-01-22

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グラム染色は簡便に、迅速に、安価で行うことができる検査であるということで、日本での感染症診療にとって欠かせない存在となっている。私も研修医の先生と一緒にグラム染色を行い、顕微鏡を覗き込んでいる日々である。

しかし、我々医師がどんなにグラム染色を診療に活かしているとしても、それは菌の推定であったり、治療効果の判定であったりという目的のために行うにとどまっているのが現状だろう。

本書は、そんな日常的にグラム染色をしているグラム染色愛好家のために、グラム染色を極めた細菌検査技師・山本剛師範が、一歩進んだグラム染色の見かたを詳細に解説してくれるという世界に一つしかないマスターピースである。

もはやこの本にはグラム染色の基本的な解説などない。冒頭から登場するのは「グラム染色でマイコプラズマ肺炎を疑うポイント」だ。「おいおい、マイコプラズマなんてグラム染色で染まらんやろ!」と思われるかもしれないが、師範はグラム染色で菌だけを見ているのではない。白血球の種類、フィブリン糸や線毛上皮などの存在からマイコプラズマ肺炎を疑うのだという。

グラム染色というと、染まった菌を観察するものと思われがちであるが、「菌が染まっていないこと」もまた重要な所見なのである。菌が見えないことと、その背景を読むことでマイコプラズマ肺炎を疑う……見えないものを感じ、木だけでなく森も見る……まさに人間国宝ッ! 本書のキモはこの「菌だけでなく背景も含めて病態を推理する」ことにある。

思えば、私は本書の元となったブログ“グラム染色道場”を見て感染症医として育った世代であり、あの“グラム染色道場”が本になるというのは感慨ひとしおである。本書は「喀痰編」ということで、肺炎、肺膿瘍などのグラム染色について大いに学ばせていただいた。引き続き「髄液編」「尿編」などの続編を期待して待ちたい。

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