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ポータブルX線装置は高齢者肺炎の診断・鑑別に有用なツールとなる[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(8)]

No.4934 (2018年11月17日発行) P.14

登録日: 2018-11-16

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高齢化の進展に伴い、肺炎を原因とする死亡者が増えている。抗菌薬による治療は進化しているが、80代は3位、90代は2位の死亡要因となってお り、在宅医療の現場では肺炎の診断・治療が重要課題になる。連載第8回は、ポータブルタイプのX線装置を駆使し、肺炎の早期診断・鑑別など外来診療と遜色のない在宅医療を24時間体制で提供しているクリニックの実例を紹介する。
【毎月第3週号に掲載】

  

高齢者肺炎で特に多くみられるのが、嚥下機能の低下による誤嚥性の肺炎。誤嚥性肺炎は、一般的な感染症のように急に発症するわけではなく、誤嚥による異物と細菌が炎症を起こすことで発症する

食欲不振や日常活動の低下、失禁など非典型的な臨床症状を呈することが多く、聴診でも特異的な所見がない。診断においては、肺結核や心不全、気管支喘息などとの鑑別がポイントとなる。

埼玉県所沢市の機能強化型在宅療養支援診療所「わかさクリニック」では、高齢者肺炎の早期診断・治療を的確に行うため、日々の訪問診療や往診でポータブルタイプのX線装置を活用している。

診断が遅れがちになる誤嚥性肺炎

同院の間嶋崇院長は、地域のかかりつけ医として24時間体制で「いつでも気軽に相談できる」「どんな症状にも可能な限り対応できる」外来診療と在宅医療をクリニックのコンセプトに掲げる。ポータブルX線の撮影回数は、年間約1000回。間嶋さんは、2014年にポータブルX線を導入した理由をこう語る。

「医療の基本ですが、診断をしっかりつけなければ適切な治療はできません。熱や咳が出て動けない患者さんをX線の検査目的で外来に連れてくることは難しいので、必然的な流れで導入しました」

特に誤嚥性肺炎は心不全や気管支喘息などにみられる大水疱音、連続性ラ音を呈することがあり、聴診だけでは鑑別がしにくい。また熱や咳、痰といった肺炎症状が出ていなくても、すでに糖尿病や心疾患などほかの疾患に罹っていて潜在的な増悪因子を持っている患者が多いことから、急速に重症化する場合もあり、高齢者肺炎では早期に診断をつけられるかどうかが予後を左右する。

「X線の画像を見れば、抗菌薬で治るものなのか、それとも病院に運ばなくてはいけない状況なのかが現場で分かるので、在宅医にとっては非常に有効な検査機器だと思います」(間嶋さん)

国内唯一のバッテリータイプのX線発生器

同院で使用しているのは、ミカサエックスレイの「TRB9020H」(http://mikasax-ray.com/product/TRB9020H.php)。最大の特徴は、国内唯一のバッテリータイプのX線発生器であるという点。在宅医療で訪問する患家では、電源を確保することが難しいケースも少なくない。TRB9020Hは1回の充電で約200回の連続撮影が可能で、使う場所を選ばないため、救急や災害医療の現場でも活用されている。

「画像は据え置き型のX線装置と遜色ないレベルです。発生器を設置する組み立て式スタンドはセッティングが簡単で、撮影時間が短くて済むところも在宅現場では重要になります。比較的軽量(バッテリー内蔵時で約7.1kg)で持ち運びがしやすく、医療的な需要も多いので、常に誰かの往診車のトランクに入っているほど日常的に活用しています」(間嶋さん)

検査から処置までが在宅で完結する

TRB9020Hで撮影したX線画像が図。①は比較的元気な95歳女性が発熱・倦怠感を急に訴えたため往診し、撮影した胸部X線。咳や痰はなかったが右下肺野のコンソリデーションから誤嚥性肺炎と診断し、治療を開始した。

②は肺炎以外でX線のニーズが多い骨折患者のケース。訪問診療を行っている介護施設で転倒して手をついた時に橈骨の遠位端を骨折したという。わかさクリニックではX線で骨折を確認すると、リハビリテーションスタッフが患家を訪問。整復し、ギブスで固定する。通常の骨折であれば、外来に行く必要はない。

「介護施設では人手不足が深刻な状況にあります。スタッフが入所者の方を医療機関に連れていくとなると、付き添いで半日が費やされてしまいます。患者さんも痛いのに動かされるのは辛いので、我々が施設に出向いてX線撮影をしたり、処置をしたりするととても喜ばれます」と間嶋さんは語る。

チームの力を集結して在宅に取り組む

わかさクリニックは、X線以外にも、エコーや心電図、胃瘻用内視鏡など携帯型の各種機器を揃え、在宅でも必要に応じて検査を行っている。

これは間嶋院長が在宅医療でも外来診療と遜色ない質の医療を提供するという方針に基づき、即日検査・即日診断という“スピード感”を重視していることに加え、患者ニーズの多様化に対応してきた結果だという。

「当院は地域に密着した外来診療からスタートしました。以前は通院していた患者さんの状態が変化して在宅に移行するケースが多く、『在宅だから』とお断りして、患者さんの信頼を裏切るようなことはしたくありませんでした。電話をしてくる患者さんやご家族は困っているのですぐ対応してあげたい。そのために必要なことは何か、そう考えているうちに在宅でも必要な検査ができる機器が増えていきました」(間嶋さん)

同院は外来と在宅部門に加え、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、認知症カフェや保育園、イベントルームなどを備え、地域の医療と介護を支えている。

「高齢化が進展する中で、重症患者や認知症の方が在宅でも増えていくことは確実です。そうした環境で質の高い医療を提供し続けるには、医師の力だけでは限界があります。進化した医療機器やコメディカルといった医師以外の力を集結したチームで在宅医療に取り組む必要があると考えています」(間嶋さん)

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