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ポータブル脳波計の活用で認知症とてんかんを正確に鑑別したい[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(6)]

No.4925 (2018年09月15日発行) P.14

登録日: 2018-09-19

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救急医療と在宅医療では求められる医療が異なるものの、現場の条件が厳しいという共通点がある。救急のニーズを想定して開発された医療機器は小型・軽量化が進んでいる上に操作性に優れており、在宅でも活用されるケースが増えている。連載第6回は、ポータブルタイプの脳波計を導入し、在宅患者の認知症診断で効果を上げている診療所の事例を紹介。かかりつけ医による適切な認知症治療のあり方を考える。【毎月第3週号に掲載】

高齢者の増加に伴い、発症頻度が高まっていると 考えられる疾患の1つに、必ずしも痙攣を伴わない 「非痙攣性てんかん重積(non-convulsive status epilepticus/NCSE)」がある。NCSEは2000年以降、複雑部分発作や小発作の重積状態といった病態の認知が進んできてはいるが、まだ神経系専門医の間でも概念や臨床像の理解が十分とは言えない。またCTやMRIの画像では責任病変が認められないことが多いため、治療可能であるにもかかわらずほとんどのケースで見逃されてしまい、予後の悪さにつながっている。

改善しない認知症はてんかんを疑う

NCSEを含む高齢者てんかんの診断で最も有効な方法は、迅速な脳波検査だ。しかし意識障害で救急に運ばれてきても、夜間で検査技師が不在だったり、あるいは土日だったりすると検査が翌日、時には翌々日になってしまうこともある。当然脳にはダメージが蓄積されており、NCSEと診断がついて治療を開始しても、効果が出にくい。こうした事態を防ぐために開発されたのがポータブルタイプの脳波計だ。

地区医師会主催の勉強会で、ポータブル脳波計が発売されたと聞き、東京都大田区の「くどうちあき脳神経外科クリニック」院長の工藤千秋さんは自身のクリニックで導入すると即決した。工藤さんは外来診療に加え、在宅医療にも積極的に取り組んでいる。脳神経専門医として多くの認知症患者を診療する中で、在宅で脳波を測りたい思いを抱きながら、なかなか実現できないジレンマを抱えていたという。

「認知症だと思っていた患者さんが、実はてんかんだったということが少なくありません。まるで認知症であるかのような症状が出ているので、気づかないのです。日本では100人の認知症患者のうち7~8人程度はてんかんによる物忘れだと言われています。抗認知症薬を投与し続けているのに全然よくならない患者さんがいたら見方を変え、てんかんではないかと疑い、必ず脳波を取るようにしています」

簡単かつスピーディーに脳波を測定

工藤さんが導入したのは日本光電の「EEGヘッドセット AE-120A」(https://www.nihonkohden.co.jp/iryo/products/physio/03_eeg/ae120a.html)。ヘッドセット(左頁写真)を患者の頭部に装着し、丸ブラシのようなシリコン製の使い捨て電極で最大8チャネルの脳波を計測、Bluetooth通信で脳波計にデータを送信する(図)仕組みだ。現状では世界で唯一のテレメトリ(無線)式脳波計となっている。

AE-120Aの機能面での最大の特徴は、ERやICUといった厳しい環境下で脳波測定を可能にするため開発されただけに、不慣れなスタッフでも簡単かつスピーディーに脳波を測定・モニタリングできる点だ。またモーションセンサを内蔵しているため、体動による雑音と脳波の区別をすることができ、場所や患者の状態を選ばず、ノイズにも強い。

工藤さんは在宅医療で使う医療機器において、①簡単に使える、②持ち運びしやすい、③結果がその場で分かる―の3点が重要だと指摘する。

「実際にAE-120Aを使ってみると三拍子が揃っていました。簡単という点では『ワンタッチ・ワンプッシュ』の感覚で装着と測定が可能です。また測定したデータを患者さんのご家族と一緒に眺めながら説明できるので理解が深まり、治療が進めやすくなる効果もあります。所要時間は計測自体に15分程度、全体で30分もあれば十分で、患者さんの負担が少なく検査できることもメリットです」

「ぼーっと、もぐもぐ」は複雑部分発作の可能性

高齢者のてんかん患者に特徴的な複雑部分発作の症状について、工藤さんは「ぼーっと、もぐもぐ」と表現する。

「話している最中に視線がどこかに飛んでいってしまったり、何も食べていないのに口をもぐもぐと動かしたり、また服を触っていたりと集中していないことが頻回にある場合、高齢者てんかんの可能性があります。しかし医師も家族も『高齢だから』『癖だから』としっかり原因を探らず、何年も抗認知症薬を投与しているケースが少なくありません。この脳波計を使い初めてから約1年になりますが、脳波でてんかんと分かり、抗認知症薬から抗てんかん薬に切り替えた結果、今では普通におしゃべりができるようになった人が10人以上いて驚いています」

高齢者てんかんを巡っては、高齢者の高速道路の逆走や万引きなど、病気が原因で物事の善悪の判断ができなくなったために起こしてしまう問題が多発している。この背景には、工藤さんが指摘するように「認知症でないのに認知症の治療を受け続けている」高齢者が一定数存在している現状があるとみられている。高齢者てんかんは抗てんかん薬による治療効果が高く、少ない量でも効果があるとされており、早期の診断が非常に重要になる。

現在AE-120Aは3次救急などを中心に導入されているが、工藤さんは在宅や外来での普及が大切と指摘する。「在宅医療に限らず、地域の診療所で気軽に脳波検査ができる環境が整えば、症状が改善する高齢者はかなりいるはずです。もし鑑別が難しければ専門医に紹介すればいいのです。超高齢社会を迎える日本にとって、高齢者てんかんと認知症の適切な鑑別は今後ますます重要な課題となるのではないでしょうか」

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