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ポータブルX線装置の活用で入院関連機能障害を減らしたい[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(5)]

No.4921 (2018年08月18日発行) P.14

登録日: 2018-08-15

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高齢化の進展で在宅医療のニーズが高まるにつれ、患者像が多様化している。そこで重要になるのは、迅速かつ正確な鑑別に役立つポータブルタイプの各種検査機器だ。今回は、都市部で携帯型X線撮影装置を活用している在宅クリニックの事例を紹介し、今後の在宅医療で大きな課題となる、複数疾患を抱える認知症患者などに対する医療提供のあり方について考えてみたい。
【毎月第3週号に掲載】

認知症を基礎疾患とする患者は、高齢であるがゆえに肺炎や心不全などを併発しやすい。しかし入院すると、その疾患自体は治癒しても、寝たきりになってしまったり、食事が摂れなくなったりと生活機能が低下するケースが多い。

こうした患者は在宅で診るほうが本人にとっても家族にとっても幸せなのではないか―。東大医学部附属病院老年病科で数多くの認知症患者を診てきた山口潔さんは、こうした思いから2013年、東京・世田谷区に在宅医療をメインに提供する「ふくろうクリニック等々力」を開業した。

誤嚥性肺炎の診断確定に活用

ふくろうクリニックではポータブルエコーなど在宅で活用する検査機器を各種揃えているが、認知症患者に多い誤嚥性肺炎の診断に役立っているのが、開業1年後に導入した携帯型X線装置だ。

「認知症の高齢者によく見られるのは、誤嚥性肺炎が原因で高熱が出て、心不全になるという一連の流れを辿るケースです。もちろん聴診で肺炎かどうかある程度は分かりますが、胸水の有無などをより正確に診断するためにX線を撮るようにしています。高熱で呼吸器障害がある場合には風邪によるものか肺炎によるものかという鑑別が大切です。肺炎であれば当然抗生物質を投与しなければなりません。在宅でX線が撮れなければ医療機関に行くことになりますが、外出すること自体が難しい患者さんが圧倒的に多いので、患者さんやご家族から喜ばれています」(山口さん)

「胸部・腹部は設置型と遜色ない」

山口さんが導入しているのは、キヤノンメディカルシステムズの「IPF-21N」(https://jp.medical.canon/products/xray/ipf_21n)。ポータブルタイプだが、定評のある一般X線撮影装置で培われた技術が搭載されている。キヤノンメディカルシステムズは今年1月に旧東芝メディカルシステムズから社名変更し再スタートした医療機器・システムメーカー。東芝時代の事業と製品ラインナップをそのまま引き継いでいる。

IPF-21Nの機能面での主なポイントは2つ。1つ目は、安定した高X線出力を実現しつつ、家庭用100V電源でも使用できるため撮影場所を選ばないところだ。もう1つは人体の形に配置された撮影部位と撮影方向、体厚をセットするだけで診断に最適な撮影条件が選択されるなど、撮影設定を大幅に簡略化した点。操作画面は大きくシンプルでボタン操作もしやすい。

画像のクオリティについて山口さんは「骨は私が整形外科の専門でないこともあり、あまり撮影しませんが、胸部や腹部は設置型のX線撮影装置と遜色なくきれいに撮れます(図)。腹部のX線では腸管内のガスの位置や量をみることで、閉塞部位をある程度把握することができます。排便がない患者さんが単なる便秘なのかイレウス(腸閉塞)なのかを鑑別するためにも重要です」と高く評価している。

撮影は、訪問診療時にベッドサイドで、簡単に組み立て・分解ができる櫓のような4脚にX線発生器を設置して行う。発生器は約6.3kgと決して軽くはないが手持ちでの撮影も可能だ。支柱があるキャスター移動式タイプの保持装置もオプションで用意されており、院内回診など幅広い用途に活用できる。

在宅でも検査できるという安心感が大切

高齢者の増加に伴い、入院をきっかけにADLが著しく低下する入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)が大きな問題となっている。HADを防ぎ、患者の在宅復帰をいかに円滑に行うかが重要になるが、HADの危険因子には、低いADLや認知機能障害、Alb低値、悪性腫瘍などが挙げられている。70歳以上の高齢者の30〜40%に発症するという海外の報告もあり、高齢者の専門病棟であっても予防が難しい。

こうした現状を踏まえふくろうクリニックでは、できるだけ在宅で医療を受けられるよう、クリニックの機能を強化している。「米国では、救急に来た肺炎や心不全の急性増悪、蜂窩織炎の患者さんを入院させた場合と、自宅に帰して医師や看護師が家に訪問した場合とを比較した研究が進んでいます。在宅のほうが治療期間が短く寝たきりになる人も少ないにもかかわらず、治療成績に変わりがなかったという結果が出ており、在宅で入院に近いレベルの医療を提供すれば、少なくともHADによるADLの低下は避けることができるということを示唆しています。患者さんの中には退院することに不安を覚える人もいるので、在宅の機能を強化すれば、例えば慢性の呼吸器疾患で入院し、毎週X線を撮っていた患者さんの『退院後も定期的にチェックしてほしい』という気持ちに沿うことができます」(山口さん)

訪問診療を行う在宅クリニックに携帯型X線があれば、そうした悩みも軽くなり、安心して自宅に戻りやすくなるだろう。「不安なく治療に専念できるような環境を整えてあげることも地域の在宅医としての1つの役割ではないでしょうか」と山口さんは語る。

“高齢者総合支援診療所”を目指すふくろうクリニックは、検査機器の充実に加え、進行性の疾患でも在宅で適切な医療を受けられるよう、認知症やがん、神経難病の専門医を常勤で揃えている。

自宅や特養での長寿健診にも有効

山口さんは、自宅や特別養護老人ホームなどにおける長寿(後期高齢者)健診での携帯型X線の活用も勧める。「地域の開業医の先生には特養の協力医をしている方も多いと思います。なかなか健診に行けない人もいるので、自宅でX線まで撮ってもらえるとなれば高齢者にはありがたいはずです。訪問診療をメインに行っていない先生でも、携帯型X線を導入すること で、診療の幅が大きく広がると思います」

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