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深澤晟雄資料館を訪ねて─地域包括ケアシステムの構築を学ぶ[エッセイ]

No.4896 (2018年02月24日発行) P.62

渡邊 忍 (医業経営コンサルト)

登録日: 2018-02-25

最終更新日: 2018-02-20

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第66回日本病院学会(2016年6月23~24日)参加後、地域包括医療体制の先駆けとなった岩手県の旧沢内村村長の深澤晟雄資料館を訪ねました(写真)。


深澤は私が医療に身を投じた昭和39年以前から村民の健康、特に乳幼児死亡ゼロを掲げ、全村民との討議を重ね村民の命を守るために、健康の増進、予防、検診、治療、社会復帰まで、一貫した地域包括医療体制を築き上げました。

私の医療に関わる半世紀を振り返れば、「診療報酬」「医療制度の変革」「医師教育制度の改革」「高度医療」「医療のIT化」など、数えきれない現場を見聞きしてきました。

私が医療に身を置いてから、いずれは訪ねてみたいと思っていましたが、今回やっと当地を訪れることができ、医療の原点とは何か、を再確認することができました。

地域包括医療体制の確立

深澤が復員後、地元沢内村に戻るきっかけとなったのは、父から「村に戻り、村のために尽力をしてほしい」との話を聞いたことによります。決意を固め村に戻り、教育長として「広報さわうち」創刊の編集長を任されています。

村は冬には雪深く、数mの豪雪で馬橇でなければ盛岡へ行けないような場所でした。村の予算では到底買えないブルドーザーを協力者と知恵を絞り購入し、冬期の交通確保に尽力して、それ以後はどんな吹雪であってもバスが通る村になったのです。

深澤語録集から

当時、深澤は次のように語っています。

「広報活動は村づくりのビタミン剤であり、民主主義の栄養素である」

その後、村の行政を改革するには村長にならないとできないと考え、村長選挙に立候補しました。有権者に訴えた言葉に、「生命の商品化は絶対に許されません。人間尊重・生命尊重こそが政治の基本でならなければなりません」があります。

昭和37年の年頭所感の中に、「政治の作用は、概括的にモノを対象とするものと、人を対象にするものとに大別することができようが、建設行政や産業行政には、たとえ不十分ではあっても、きわめて意欲的であるのに反し、厚生行政や文教行政については、はなはだ関心が低いように思われる。生命や教育、すなわち人づくりに重点を置かないようでは、結局は政治の失敗となろう。思い切って第一着手として、生命と健康については、国家は一切の責任を負うことにしてはどうか。生命行政は、一切の行政に最優先させることこそ福祉国家の面目というべきであろう。所得格差を問題にするより先に、人命格差を問題とすべきであろう。当局にきびしく反省させ、鞭撻いたしたい」と語っています。これは、「医療費無料化は法律違反」と言われたことに対する反論でした。

地域包括ケアシステムの構築

今日、厚生労働省が行おうとしている地域包括ケアシステムの構築は、生命と健康を守る取り組みとして、既に50年前に深澤村長が計画していた「地域包括医療体制」と変わりません(表1・2)。これから考えるに、行政のトップがいかに住民の基本的人権を尊重して、住民との討議の中で意見を聞く耳を持って事に当たるか、が大事です。このことは、資料館を訪ねて改めて感じました。

 


今各地で「地域包括ケアシステムの構築」に取り組んでいますが、誰かがリーダーシップを取り、組織を構築して、地域住民の理解を得ながら住民本位のシステムを構築しなければ機能しないのではないでしょうか。

行政、医師会、その他関係機関が何回も討議してもまとまらないことで問題があるのは、行政のリーダーシップによるところが大きいです。

行政には福祉・介護等の関係部署はあるが医療の部署はなく、また医師会の中でも、今のままでも十二分にやっていけるのだからシステム構築に参加しなくてもよい、と考えている会員も多数いると聞きます。

地域包括ケアシステムでは、住民互助への期待は高く、地域では住民同士で見守り、支え合う活動が強化されなければなりません。システム構築の単位は「中学校校区」とされていますが、「小地域福祉活動」「生活支援をサポートする活動」を活性化していかなければなりません。

現在、各市町村が行おうとしている「地域包括ケアシステムの構築」を確立するには、沢内村が掲げた医療行政の手法「地域包括医療体制」が役に立つのではないでしょうか。医療機関では「院内体質改善」、自治体では「機構改革」などが叫ばれ、それぞれにおいて改革・改善が行われています。しかし、それには地域住民の自己健康管理能力の向上が不可欠です。各自治体が、生命尊重の精神を守り、さらに地域の自然環境保護と地域発展の産業開発を調和させながら、地域住民に対する健康維持の新たな課題に挑戦をしていかなければなりません。

深澤晟雄の語録集を読み返すと、政治の力、それもリーダーシップの理念が地域住民を巻き込み、そして住民の力を合わせれば、どんなことでもできることを立証しています。政治の中心は生命尊重が基本であり、経済開発も社会開発も必要ですが、どちらも政治原則として認識すべきです。


第66回日本病院学会は望月 泉学会長(岩手県立中央病院院長)のもと、新渡戸稲造の英文著書から「医療人のあるべき姿─BUSHIDO(智・仁・勇)をもって」が主テーマでした。

「医療人のあるべき姿」を考えるとき、深澤晟雄資料館を訪ねると現在の医療人に示唆されているように感じました。医療界は今後、さらなる転換が求められています。どのような変革・改革にも対応できる医療の理念と組織を構築して、国民の生命尊重を守り、医療の質の向上、安全で安心して受診できる医療機関をめざしていかなければなりません。

安全で安心な医療を提供するには、「医療人教育」が最大のテーマです。医療に身を置く関係者はBUSHIDOの精神をいかに地域住民へ提供するのか再度、再認識して取り組まなければなりません。

地域医療構想は、地域包括ケアシステムとの医療介護総合確保推進法に明記されている国策です。各医療機関にとっても、国民・医療関係者にとっても将来を望む姿です。政府から投げられたボールは我々医療機関が受け、持っているだけでは何にもなりません。このボールを生かし、ホームランボールにするチャンスです。すべての医療機関が地域社会の発展に、また、自らの医療機関の発展に更なる努力に努めなければなりません。

少子高齢化が進み、年々高齢者の医療費が増加しています。抗癌剤等の高額薬は増え続けています。それにより平均寿命も延びています。社会保障等に関する知恵は、官民一体となって考えなければなりません。

皆保険制度を維持するには医療費の抑制をどのような政策で行うのか、国・国民が一体となり適正な医療をめざしていかなければなりません。企業でも健康経営が叫ばれ、「東京証券取引所」による「健康経営銘柄」が選定されています。健康診断の充実が企業の成長に寄与し、職員の意識改革の一役を担っています。今回の地域包括ケアシステムの構築は急務だと、地域医療構想には明記されており、一刻も早い構築が望まれています。

各自治体・医師会の関係者が、地域包括ケアシステムの構築のモデルとされている千葉県柏市へ見学に行かれています。柏市を見て何を感じ、何をすべきか、自分たちの地域にあったシステムを構築しなければなりません。多分感じることは組織づくりだと思います。組織を引っ張るにはリーダーが必要です。リーダーには是非、深澤の精神を生かしてもらいたい。必ずや良いシステムが構築されることでしょう。


2018年4月には診療報酬・介護報酬のダブル改定が行われます。現状を考えるとますます地域包括ケアへの対応が重要になってきます。

国により2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書で、医療と介護の連携が強力に推進されています。2018年度から医療計画、介護保険事業計画がスタートします。医療・介護機関には地域包括ケアシステムの深化・推進が望まれます。また、2019年10月に予定されている消費税10%の導入が医療界の存続の足かせにならないことを切に願っております。

【参考】

▶ 深澤晟雄資料館文献.

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